九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 005
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肩インピンジメント症候群に対し股関節-体幹運動方略改善による力学的ストレス軽減を目的としてアプローチした一症例
~挙上動作時の圧中心軌跡に着目して~
*徳田 一貫阿南 雅也佐々木 誠人川嶌 眞人
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抄録

【はじめに】
 一般に、肩インピンジメント症候群は肩甲上腕関節のリズム破綻が問題とされているが、肩関節は胸郭上に浮遊し、体幹-下肢と機能的連結があり全身の影響を考慮してアプローチを行う必要があると考える。今回、肩関節機能のみでなく股関節-体幹運動方略改善を目的に、立位姿勢・肩挙上動作を臨床指標としアプローチした結果、下肢荷重・圧中心(以下COP)軌跡に変化が見られ症状改善が得られたので以下に報告する。
【症例紹介】
 症例は30代の男性。身長176cm、体重80kg、BMI 26。現病歴は平成18年11月初め頃、ビニールハウスから転落し右肩受傷。翌朝右肩痛出現したが自宅で様子をみていた。その後右肩痛持続した為、1週間程外来通院したが症状軽快せず、手術目的にて平成19年2月1入院。翌日、右肩関節鏡視下肩峰下除圧術施行となる。既往歴は2年前に左肩腱板損傷あり。職業は工場勤務で物を持ち上げる作業が多い。
【術前評価】
 疼痛は安静時・夜間時(-)、運動時(+:肩関節挙上時・作業時に疼痛あり)。ROMは右肩関節屈曲120°、外旋60°、内旋80°。日整会肩関節疾患治療成績判定基準(以下、JOA-Score)は61点。立位姿勢は上半身重心左側変位、肩甲骨挙上・外転位、上部体幹左側屈・左回旋し骨盤後傾・右回旋位の姿勢。挙上動作は肩甲骨挙上位で股関節・下部体幹機能低下により、骨盤・上部体幹の右側移動がみられず、肩甲‐上腕リズムが崩れた状態で行う。下肢荷重検査は右46.3%、左53.7%。COP軌跡は全体的に左側変位している。
【アプローチに至る臨床推論】
 本症例は左肩腱板損傷による右上肢の補償と右肩関節外傷での疼痛回避の為、立位姿勢異常を呈したまま職場での代償動作の繰り返しにより肩インピンジメント症候群を招いたと推察した。挙上動作は股関節-体幹機能低下により重心右側移動困難となり肩甲骨挙上の代償動作が生じ、肩関節moment armの増大により肩甲上腕リズムの破綻に至ったと考えた。よって、臨床指標を立位姿勢・肩挙上動作とした。outcomeは、骨盤・上部体幹右側移動による下肢荷重・COP軌跡の右側移動獲得とし、挙上動作時の動作改善・疼痛軽減が図れると考えた。
【理学療法アプローチ】
 1.肩関節機能の改善、2.胸椎制御による上半身重心移動の獲得、3.骨盤側方移動獲得。
【結果】
 疼痛は肩関節挙上時の疼痛消失。ROMは右肩関節屈曲180°、外旋60°、内旋80°。肩JOA-Scoreは90点。立位姿勢は上半身重心の正中化がみられる。挙上動作は骨盤・上部体幹右側移動がみられ、肩甲骨挙上が軽減し疼痛なく可能。下肢荷重検査は右52.9%、左47.1%。COP軌跡は全体的に右側変位している。
【まとめ】
 肩インピンジメント症候群による疼痛の原因を追求し、股関節-体幹運動方略改善を含めた適切な肩甲上腕リズム再獲得のためのアプローチを行う必要がある。

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© 2007 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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