抄録
【はじめに】
今回、頚髄損傷に橈骨遠位端骨折を合併し手関節背屈角度に制限をきたした症例に、Ultraflex 3 Components(以下Ultraflex 3)を用いた。その結果、背屈角度改善が得られ、移乗動作自立・ADL拡大に至ったので治療・訓練経過を報告する。
【症例紹介】
40代、男性、診断名は頚髄損傷C7(完全麻痺)、左橈骨遠位端骨折、左鎖骨骨折、左肩甲骨骨折、左棘上筋不全断裂である。現病歴は平成17年9月上旬バイク通勤中に交差点で右折車と接触事故、同年9月下旬頸椎前方固定術、左手関節骨接合術施行、 同年10月下旬よりリハ目的にて当院入院、同日OT開始となる。
【初期評価】
ROMはPassiveにて左手関節掌背屈共に10°、左肩関節屈曲・外転110°、左肘関節伸展0°の制限がみられた。レベル判定は右上肢C8B3、左上肢上腕三頭筋3+よりC7A以上と予測された。ADLはBarthel Index10/100(食事:スプーン監視、整容:一部介助、その他全介助)、その他自律神経機能障害(起立性低血圧)、排尿・排便障害がみられた。
【Ultraflex 3 導入の経緯】
OT訓練開始から1ヶ月間、拘縮や疼痛が影響している左手関節背屈制限に対し重点的にROM訓練を行った。また、合わせてcock-up splintを作成し併用した。しかし、cock-up splintは一定角度のみでの固定であり最大域での固定や持続伸張が不可能である為に、顕著なROM改善が期待できず訓練において難渋していた。
【方法】
そこで、任意の角度で無段階調整にて固定でき、持続的矯正可能な「Ultraflex 3 Components」を用いた。症例は右手にて自己装着出来、背屈角度は目盛りを参考に疼痛の少ない範囲で自己調整可能であった為、自主訓練の一環として取り入れた。使用時間1回30分以上、使用頻度は1日2~3回、夜間帯は装着を行わなかった。
【結果】
Ultraflex 3 導入後約40日経過で背屈角度10°から60°に、またOT訓練開始から4ヵ月後Barthel Indexは65点へ改善し側方移乗が自立レベルとなった。その他、車椅子駆動時に手掌面の接地面が増え、スピードや操作性が向上し、さらに除圧も可能となり、マット上動作・更衣動作の時間短縮へ繋がった。最終的には埋め込み式トイレでの排泄動作・洗い場での洗体動作・自動車への移乗動作獲得まで至った。
【考察】
今回Ultraflex 3 を用い、本症例において1.自己装着出来た2.目盛りで背屈角度が分かり自己調整可能3.疼痛の少ない範囲での持続伸張が可能であったことから早期に手関節背屈角度を改善することができた。これらのことにより、移乗動作自立・その他ADL動作の拡大へと繋げることが出来たと考えられる。
頸髄損傷(下位)の橈骨遠位端骨折による手関節背屈制限に対して、Ultraflex 3 を用いることは早期にROMを改善し移乗動作自立、ADL拡大へ繋げるには有効ではないかと考えられた。