抄録
【はじめに】
昨年4月の改定により介護保険は施設介護から在宅介護へと重きをおくようになった。そのため介護老人保健施設(以下老健)でも入所者をより早期に在宅へ退所させる方向にあり、当施設でも在宅復帰へのアプローチを積極的に行っている。今回、在宅復帰が困難と思われた症例が、家屋改修と福祉用具の導入等により自宅へ退所となったため報告する。
【症例紹介】
70代女性、右視床出血により急性期病院での保存的治療の後、約6ヶ月間の回復期病棟でのリハビリテーションを経て当老健に入所した。左片麻痺、注意障害、左半側空間無視等により歩行困難で施設内のADLは入浴が一部介助、その他のADLは車椅子により自立レベル。自宅は独居で築40年の分譲団地5階、エレベーターはなく階段は片側のみに手すりがある。室内は敷居や段差が多い。
【経過】
入所時、本人・家族は自宅への退所は困難と考え公営のバリアフリー賃貸住宅等を検討していたが入居希望者が多く、入居は困難であった。理学療法士、介護スタッフ、相談員で自宅の家屋調査を行い、軽介助にて階段昇降が可能であったため、室内を車椅子移動可能であれば在宅復帰も可能と判断し、家族に自宅を改造して在宅に戻ることを提案した。提案は介護保険の限度額20万円以内で改修する案や大掛りにフロア全体を改造する案など費用の異なる数案を提示し、家族は介護保険の限度額を超え費用は掛かるがフロア全体を改造する案を選択した。改修内容は床を玄関から全てのフロア段差無しのフローリングとし各々に手すりを配置した。流し台を車椅子対応型に変更、トイレは壁とドアを取り外し車椅子での出入りを容易にした。入所中に片側の手すりでの昇降など自宅を想定したADL動作練習や、退所前後訪問指導で数回自宅でのADL練習を行い、家族とも練習を行った。更に福祉用具を導入し自宅へと退所となった。
【考察】
家屋改修は介護保険の限度額20万円以内で手すり取り付け等の小規模な工事となる例が多いが、専門職が様々なプランを提案することで家族が選択の幅を持ち、自宅復帰が困難と思われる例でも復帰することも可能であると考える。