九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 13
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ADL自立に向けて
前頭葉症状・記憶障害を呈した症例との半年間の関わりを通して
*原田 真由美
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抄録

【はじめに】
今回、脳梗塞により前頭葉症状・重度の記憶障害を呈した40歳代男性を担当した。OTでは動作手順や環境設定を検討し、ADL(主に排泄動作)訓練と記憶障害に対する訓練を実施した。症例・病棟と環境・意識統一を継続的に図ることにより、ADLがほぼ自立(BI45→85点)となった為、経過を含め報告する。
【初期評価】
筋力:両上下肢3~4・体幹3、感覚:左上下肢過敏、動的バランス:監視、高次脳機能:自発性低下・記憶障害(短期・長期)・人格障害の前頭葉症状あり、病識:理解乏しい、HDS-R:13点、基本動作:自立~軽介助、ADL:自立~軽介助(排泄:車椅子使用、移乗・着脱軽介助)
【経過】
訓練開始時:ADL訓練時、手順を指導するが、指示理解困難であり、拒否が強く見られた。また、病棟との環境・意識統一がなされておらず、症例が混乱する状態となった。記憶障害に関しても、メモ帳の利用を導入したが、拒否が強く実用性は乏しかった。
環境設定の検討:動作手順の指示理解向上を図る為、貼り紙・メモ帳の代償手段を導入した。一連の動作をポイントごとに貼り紙・メモ帳へ記載・提示した。また、これらを確認するように、継続的に促した。これにより、自発的な確認が徐々に見られ、理解可能となることが増加した。
環境・意識統一:症例・病棟との統一した関わりを図る為、病棟内にある伝達ノートへ一連の動作手順を記載し、口頭での伝達も行った。更に、変化点・注意点が生じた場合には、随時病棟スタッフと情報交換を行い、統一した関わりを継続した。これにより、院内生活において混乱することなく、徐々に安定した動作が見られるようになった。
【結果】
症例・病棟と環境・意識統一を継続的に図ることにより、動作手順の指示理解力も向上し、排泄動作が自立となった。また、自室以外への活動範囲が拡大する等、活動性の向上も認められた。記憶障害に関しても、今回のアプローチを通して、自発的に貼り紙やメモの確認を行なう様子が認められた。しかし、今後生じると考えられる様々な環境変化への適応については課題が残ると考えられる。
【まとめ】
記憶障害を呈する症例に対しては、環境調整やメモ等の代償手段の利用が一般的とされている。濱田(03年)らによると、「高次脳機能障害者に対して、反復的にADL訓練を実施し、動作の獲得が図れた」という報告もある。今回、このような結果に繋がった要因としては、やはり症例・病棟と環境・意識統一を継続的に図ったことが最も重要だったのではないかと考える。現在、高次脳機能障害者を取り巻く環境・理解は乏しい状況にある。OTの役割として、症例・家族など当事者の立場に立ち、検討・指導を行い、出来ることを一つでも多く増やしていくことが必要ではないかと考える。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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