抄録
【はじめに】
今回、走行離地期の腰椎アライメントに対する簡易的な評価法;「離地期再現テスト」を考案した。これは静止立位時の腰椎前彎に対して、離地期で予測される腰椎前彎の増強率を簡易的に定量化したものである。これを陸上長距離選手に対するメディカルチェックで用い、同時に行っている股関節タイトネステストとの関連性について検討したのでここに報告する。
【対象および方法】
症例は大学陸上長距離部員11名22脚(男子5名・女子6名)、平均年齢19歳であった。
はじめに、矢状面から見て下位腰椎(L4)から上位仙椎(仙尾彎曲より上位の仙椎部分)の棘突起間を結んだ軸と床からの垂線がなす角度を「腰仙椎前傾角」として腰椎前彎の指標とし、その角度が大きい程腰椎前彎が増大しているとみなした。
測定肢位は、「静止立位肢位(以下:STP)」と「離地期再現肢位(以下:TRP)」で行い、両肢位での「腰仙椎前傾角」を計測した。TRPの計測条件は、頭部体幹は床からの垂線が耳垂・肩峰・大転子を通り、一方の下肢を前方への踏み出し、下腿が床と垂直になるようにした。また前方側を評価対象側とした。他方の下肢は後方に引き、膝伸展、足関節最大背屈位で踵が離床しないようにした。
その後、STPに対するTRPの割合を前彎増強率(TRPでの腰仙椎前傾角÷STPでの腰仙椎前傾角×100)として算出した。
股関節タイトネステストとして、大腿四頭筋テスト(以下四頭筋T)、SLRテスト、股関節内・外旋可動域(背臥位、股関節・膝関節90°屈曲位)の計測を行った。
統計学的検討として、前彎増強率と各タイトネステストの関係を見るためにピアソンの相関係数を用い、統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
腰椎前彎増強率が高いほど1)四頭筋タイトネスは増大する。2〉SLRは低下する。3)股関節外旋可動域は低下する傾向を示した。
【考察】
離地期での腰椎前彎増強は、一般に股関節伸展制限に伴う代償として位置づけられる傾向にある。今回の結果では股関節伸展制限に関わる四頭筋Tでタイトネスの増加が見られたが、その他でSLRや股関節外旋可動域の減少が見られたことは興味深いことである。
腰椎前彎の制御は腹筋群が重要であり、特に腹横筋は腰椎の分節的な安定性向上や骨盤帯の安定性に重要であると言われている。この機能が破綻すると、骨盤帯の安定性獲得に股関節二関節筋やそれと連結する靭帯、回旋筋群が関与すると言われ、この安定性獲得の為の機能の逆転が股関節周囲筋のタイトネスを生じさせているのではないかと考えた。
今後、腰椎部と股関節の関連性について検討を重ねていき、スポーツ選手の障害の予防、改善に取り組んでいきたい。