抄録
【緒論】
近年、女性アスリートにおける摂食障害、月経異常、それらに伴う骨粗鬆症を「女子選手の三徴」とし、疲労骨折の主たる原因として問題視されている。
女性アスリートの骨粗鬆症に対してはホルモン補充療法、疲労骨折には患部に負担のかかるスポーツの中止と装具療法が有用とされている。また、骨折に対しては近年、低出力超音波パルス治療による骨癒合促進作用が注目されているが、坐骨疲労骨折への超音波治療による骨癒合効果については渉猟し得た限り本邦での報告は無かった。
今回、若年性骨粗鬆症に起因した多発性疲労骨折を呈した女子ミニバスケットボール選手の一例に対し、低出力超音波パルス治療を実施し、一定の効果を得られたので報告する。
【症例紹介】
症例は12歳女性で、身長158cm、体重40kg、バスケット歴4年の選手で、競技レベルは県大会優勝、全国大会3位と小学生トップレベルであった。診断名は右坐骨疲労骨折、第3腰椎分離症、後に骨密度の低値が発覚した。主訴は来院約2ヶ月前よりプレー中に右臀部、腰部が痛むというものであった。尚、初経は認められていない。
【医学的所見と治療経過】
X線上右坐骨の骨吸収像、MRIにて第3腰椎の右椎弓に分離所見を認め、各部位に圧痛、運動時痛を認められたが、SLRテストは陰性であった。右坐骨部に対しての低出力超音波パルス治療は伊藤超短波株式会社製オステオトロン3を使用し、週3回、6ヶ月間行った。痛みのコントロールについては、ストレッチと高周波治療を行った。損傷部の負担軽減を図るため、競技動作の制限も求めたが本人、家族の強い希望により受傷後も従来通りの競技動作を続け、包括的な治療はできなかった。骨密度は0.310g/cmで若年性骨粗鬆症が認められた。6ヵ月後に右坐骨骨吸収像の骨癒合が得られ、疼痛も軽減したが、第3腰椎に関しては現在も治療中である。
【考察】
今回、疲労骨折の治療に低出力超音波パルスを用い、6ヶ月で坐骨の骨癒合を認め、その部位に関して競技内での支障は消失した。恥骨疲労骨折のスポーツ復帰の時期は治療開始から平均7ヶ月といわれていることと、治療期間中十分な安静の確保ができなかったこと、更に恥骨よりも使用頻度が高く、よりダイナミックな筋の起始部である坐骨の骨折であったことを考慮すれば、今回坐骨疲労骨折に対する低出力超音波パルスによる骨癒合促進の一定の効果は得られたものと考える。
しかし、疲労骨折の治療はあくまでもスポーツの中止が原則であり、加えてホルモンバランスの確認、ホルモン療法といった本質的且つ包括的な治療の上に、超音波治療が位置付けされるべきであり、今回のアプローチは結果的に対症療法に留まっており、女性アスリートの疲労骨折治療の問題点の本質には迫れなかったのではないかと考える。