九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 17
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麻痺側支持型手すりによるトイレ動作の自立支援
~車椅子レベルの片麻痺利用者様の家庭復帰を目指して~
*中村 豪志萩原 純一新町 景充宮崎 真由美新町 裕子川畑 翔
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抄録

【はじめに】
 家庭復帰を希望される片麻痺の車椅子利用者様で、独居生活もしくはお一人で過ごされる時間がある利用者様にとって、トイレ動作の自立は重要な課題である。しかし、麻痺側の上肢が廃用手であり、屋内移動が車椅子である利用者様にとって、トイレ動作の自立は容易ではない。従来、トイレの手すりとしては、便座に座って非麻痺側の壁にL字手すりを設置するケースが多く見られているが、この環境だと立ち座り動作や移乗動作の補助にはなるが、立位保持の際に非麻痺側上肢の動きが制限され、下衣の上げ下げ動作が困難になる。そこで、便座に座って麻痺側に壁から離したL字手すりもしくは縦手すりを設置し、手すりの縦部分で麻痺側の胸部もしくは頭部を支持して、自由になった非麻痺側の上肢で下衣の上げ下げ動作を容易にするという麻痺側支持型手すりを考案した。これによって、下衣の上げ下げ動作が自立し、現在3例の利用者様の家庭復帰を達成することができ、麻痺側支持型手すりの有効性を認めたので報告する。
【手すりの特徴】
 一般的なL字手すりの設置基準とは異なる部分が多い。手すりの縦部分は一般的な位置よりも壁から離し、便座の側端から5cm、前端から15cm程度にする。便座から離れると回転動作や便座からの立ち上がり動作が困難になるので注意する。縦部分の下端は、床から70cm程度とし、上端は床から140cm程度とする。横部分は必ずしも必要ではない。本人の体格や能力に応じた微調整をする必要がある。動作能力としては、つかまり立位保持、移乗動作、逆移乗動作が自立していることが条件である。
【成功症例紹介】
 平成18年7月に73歳女性(独居)、平成19年8月に67歳男性(妻と二人暮らし)、平成19年10月に74歳女性(次女家族と同居)の合計3例の方の家庭復帰に成功した。いずれも片麻痺で、家庭復帰時の機能は、屋内移動が車椅子駆動自立、麻痺側上肢が廃用手で、一般的なL字手すりでは下衣の上げ下げが自立できなかった。内一例はベストポジションバー設置(レンタル)によるものであった。
【考察】
 麻痺側支持型手すりは、トイレ動作自立に向けて、特に独居生活の方のトイレ手すり設置方法の有効な選択肢となるのではないかと考えられる。適応がうまくいけば、長期施設待機ではなく家庭復帰に結びつけることができ、その方の今後の人生にも影響を及ぼすといっても過言ではない。
 手すり設置を含めた住宅改修にあたっては、将来的に再梗塞などによって身体機能が変化したときにも柔軟に対応できるよう、便座の位置を片側に寄せないなどの考慮が必要である。今後の課題としては、胸部で支持する場所に柔らかい素材を用いて、圧迫を軽減するなどの検討が必要である。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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