抄録
<目的>
遠城寺式・乳幼児分析的発達検査法(以下、遠城寺式発達検査)によるコミュニケーション関連領域の発達年齢と重度心身障害児・者の心拍反応の関連性について調査し、心拍反応を使った重度心身障害児・者のコミュニケーション能力の客観的評価の可能性を検討する。
<対象>
大島分類1の重度心身障害児・者11例(13歳8.1ヶ月±88.98ヶ月)及びその保護者。
<方法>
【検査手順】心拍反応の検査は以下の手順で行った。他の聴覚刺激、視覚刺激を排除できる個室で、対象者に脈波モニターのプルーブを装着してもらい5分間安静をとった後、保護者に「いないいないばあー」遊びを15~20試行行ってもらった。脈波波形はAD変換後パーソナルコンピュータに保存した。遠城寺式・乳幼児分析的発達検査は保護者への問診によって実施した。
【解析】心拍反応の解析は、保護者が「いないいない」と声を掛ける視聴覚刺激をS1、「ばー」と声を掛ける視聴覚刺激をS2とし、心拍反応は、試行の前後での脈波数の有意差検定により判定した。
心拍反応と遠城寺式発達検査の関連性は反応群と無反応群の間で遠城寺式発達検査の値に差がみられるか有意差検定を行った。また、各脈波変動成分と遠城寺式発達検査の間の相関についても検定を行った。
<結果>
心拍反応の解析の結果、期待反応の出現の有無により反応群6例、無反応群5例に分類され、遠城寺式発達検査の対人関係、言語理解、「コミュニケーション関連項目」で反応群が無反応群に比べて有意に高い値を示し、反応群の平均発達年齢はこれらの項目において全て8ヶ月に達していたが、無反応群では1例も8ヶ月に達していなかった。また、言語理解平均発達年齢は脈波変動成分、後期脈波変動成分、前期脈波変動成分との間で有意な相関がみられた。
<考察>
心拍反応を用いて重度心身障害児・者のコミュニケーション能力が8ヶ月の発達年齢に到達しているか客観的に評価しうる可能性が示唆された。また、重度心身障害児・者の言語理解の変化を心拍反応の変化によって捉えうる可能性が示唆された。
<まとめ>
1.重度心身障害児・者の心拍反応と遠城寺式発達検査によるコミュニケーション関連領域の発達年齢との関連性について調査し、心拍反応を使った重度心身障害児・者のコミュニケーション能力の客観的評価の可能性を検討した。
2.心拍反応の解析の結果、反応群6例、無反応群5例であった。
3.反応群の平均発達年齢は対人関係、言語理解、「コミュニケーション関連項目」全てで8ヶ月に達しおり、心拍反応を用いて重度心身障害児・者のコミュニケーション能力が8ヶ月の発達年齢に到達してるか客観的に評価しうる可能性が示唆された。
4.言語理解平均発達年齢は脈波変動成分、後期脈波変動成分、前期脈波変動成分との間で有意な相関がみられた。
5.重度心身障害児・者の言語理解の変化を心拍反応の変化によって捉えうる可能性が示唆された。