九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 35
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意味ある作業
終末期の小児脳腫瘍患者との関わりを通して
*村嶋 美紀
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キーワード: 作業, 終末期, QOL
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抄録

【はじめに】
私は9歳で脳腫瘍を発症し再発を繰り返した15歳の事例A氏を担当する機会を得た。
約一年の関わりで、病状は次第に悪化し失明、余命1年未満と宣告された。A氏は「デザイナーになりたい」という夢をかなえるため、退院後ボランティアの協力でファッションショーを開催した。
A氏の終末期のOTを行うにあたり、その人にとっての意味ある作業について考える機会になったのでここに報告する。
【事例紹介】
9歳で鞍上部未分化胚細胞腫を発症した15歳の女児、A氏。再発を繰り返し、15歳0ヶ月、OT初回処方される。15歳8ヶ月、腫瘍の増大により失明、余命一年未満と宣告される。15歳11ヶ月、自宅退院、ファッションショー開催。
【介入経過】
<介入前期(OT処方~失明前:約8ヶ月)>高次脳機能訓練を目的にOT処方。MMSE 22/30点。即時記憶・短期記憶低下、注意力低下が認められた。軽度のうつ傾向。身体機能は特に問題なく、ADLは自立レベル。OTでは、ゲームやくす玉作り等楽しみの要素を含んだ活動を用いた。毎日のOTの時間を楽しみにしているとの感想が聞かれ、外泊中自宅でもくす玉作りをされていた。
<介入後期(失明後~退院:約2ヵ月)>全盲のため高次脳機能の精査不可であったが、介入前期と比較して、更なる記憶力低下、注意力低下に加え反応の遅延や乏しさが著名に見られた。自発性の低下もみられた。ADLは全介助。OTではA氏の趣味や介入前期の様子を考慮し、ビーズ手芸を導入した。自発語はほとんど見られなかったが、「難しいけれど楽しいです」と感想も聞くことができ、笑顔も多く見られた。後半は、退院後にボランティアの協力によりファッションショーが開催されることが決定し、ショーに向けてのアクセサリー作りを行った。また、母親に対しては援助方法の助言も行った。
<退院後>自宅にて母親と共にファッションショーに向けてのアクセサリー作りを行った。
【結果】
失明後、日常生活が著しく制限され、全てに介助を要する生活を送っていたが、OTを通じて一日の生活の中で楽しみの時間を提供することができた。同時に、余暇活動として幼いころからの趣味である手芸の再獲得ができた。また、母親との関わりで援助方法について助言できたことが、退院後の生活にもつながった。
【考察】
A氏にとってビーズ手芸は、幼いころからの趣味が手芸であることから、趣味活動・余暇活動としての意味、作品を作るという生産的活動としての意味、家族に作品を送る・ファッションショーのアクセサリー作りという目的活動としての意味、また、家族・OT・病棟スタッフとのコミュニケーションの媒介物としての意味、そして、満足感・達成感を与える活動としての意味があったと考えられる。
終末期を迎えたA氏のOTを行うにあたり、機能面のみにとらわれず、A氏にとっての意味ある作業であるビーズ手芸を用いた関わりが、家族を含めたA氏のQOL向上につながったと考える。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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