抄録
【はじめに】
重症心身障害児・者において日常生活の姿勢管理は重要であり、一手段として姿勢保持具の導入が挙げられる。以前より市販の綿・ポリエステルクッションやタオル(以下、クッション)にてポジショニングを行っている症例に半背臥位・半腹臥位姿勢保持具と背臥位姿勢保持具(以下、姿勢保持具)を作製した。今回、家族の了承を得て有効性の比較検討を行った。
【症例紹介】
H様 11歳 女性 サイトメガロウイルス感染後遺症 GMFCS level5
Chailey姿勢能力発達レベル 背臥位level2
右凸側彎(Cobb角120°)、胸郭の扁平、右股関節脱臼
【実施期間】
期間は各2週間、ABABデザインによる比較検討を実施。
A)クッション使用期間
B)姿勢保持具使用期間
日中は半背臥位・半腹臥位、夜間は背臥位を実施。
【測定方法】
1.胸郭の厚み/幅=比率
2.体幹の骨指標計測(a.烏口突起、b.上前腸骨棘)
ア)右a~右b イ)左a~左b ウ)右a~左b エ)左a~右b
3.Goldsmith指数 1~3を10回計測し分散分析を実施。
【結果】
介入前後において胸郭の比率や体幹の骨指標計測におけるウ)エ)差では有意差が見られなかったが、ア)イ)差やGoldsmith指数にて危険率5%にて有意差が見られた。
【考察及びまとめ】
日常生活におけるポジショニングは、身近にあるものを代用して行うことが多い。症例も市販のクッションを使用しており安楽さは見られるが、体の長さや幅に適合せず、私物の数も限られているため姿勢への修正が不完全であった。今回作製した姿勢保持具は、体に適合し対称的で均等な接触支持面を実現し、生体力学的にも有効的である。また簡易で統一したポジショニングが行いやすくなり、病棟スタッフの姿勢管理への意識付けも向上した。評価では介入前後でのア)イ)差やGoldsmith指数より有意差が見られた。これらは対称的な姿勢にて筋の持続的な伸張がなされ、結果として姿勢保持具の有効性が得られたのではないかと考える。しかし、胸郭の比率やウ)エ)差においては、長期間における構築的変形により短期間では緩和されず、有意差が見られなかったと考える。
今回、ABABデザインを用いて姿勢保持具の定量的評価を試みた。今後、症例数を増やし縦断的定点的調査を行い、課題に取り組むことが重要である。そして利用者の生活の質へと還元していきたいと考える。