九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 011
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環境がハイリスク新生児の自律神経系に与える影響に関する研究
*川原 紗弥香鶴崎 俊哉
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抄録
【はじめに】
 周産期医療の進歩によりハイリスク新生児の救命率は著しく高くなっているが,ハイリスク新生児は自律神経系が未熟なために容易に機能不全を起こしうる.自律神経系の不安定は,その上に積み上げられる運動発達を阻害する因子となる.救命された児が養育される新生児集中治療室 (Neonatal Intensity Care Unit,以下NICU)における音や光の刺激は,ハイリスク新生児にとって過剰すぎるいうことが先行研究により明らかにされている.現在,適切なNICUの環境としてはアメリカ小児学会が照度日中100~200 lx,夜間50 lx,環境音45db未満を推奨している.しかし,その数値に関して具体的に検証した研究や突発的な環境変化に対する児の変化について検証した研究は少ない.そこで本研究では児の自律神経系の反応に着目し,NICUの環境変化との関係を検討することを目的とした.
【方法】
 対象は本研究への同意が得られた当院NICUおよび観察室に入院中のハイリスク新生児6名であった.環境刺激は当院NICUおよび観察室の日常的な照度と環境音を測定対象とし,保育器またはコット内の児の枕元で照度・環境音を2秒間隔で30分間測定した.児の自律神経系の変動をあらわす指標としては,心拍数(以下HR)および経皮的血中酸素飽和度(以下SpO2)を用い,環境刺激の測定と同時間帯のHRおよびSpO2を測定した.なお,当研究は本学倫理委員会より承認を受けている。
【結果】
 今回測定を行った結果,対象児の受けている光刺激の照度は17~576 lxと幅があった.また,その照度は一定ではなく,度々変化していた.児の受けている音刺激の大きさはほとんど45dbを超えており,背景音に割り込む突発的な音も頻回に発生していた.対象児のHRやSpO2は環境音・照度の変化によ不安定になっており,照度の違いによりSpO2の安定性に違いがあった.しかしながら,同じような環境下でも児によってHRやSpO2の変化の仕方は異なっており,また同じ対象児でも時間帯によってHRやSpO2の安定性に違いが生じていた.
【考察】
 ハイリスク新生児はどのレベルの照度・環境音であっても,その突発的な変化に弱いということがいえる.環境刺激の変化に対応してHRやSpO2の変化がみられたことから,児の受けている刺激が適切であるかを知る簡便な手段としてHRやSpO2を利用することが可能であると考えられる.今回の研究から,推奨されているNICUの環境が全ての児にとって良好な環境であるとはいえないことがわかった.同時に児の環境刺激に対する自律神経系の反応には個人差がある といえる.そのため,児の養育環境を個別に調整する必要があると考えられる.NICU全体としてはどのレベルの照度・環境音が望ましいのかは,さらに症例数を重ねて検討する必要がある.NICU全体の環境調整と個別の調整の両方をどう進めていくのかが今後の課題であると考える.
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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