抄録
【はじめに】
上腕骨遠位端骨折は四肢の骨折の中でも治療に難渋する骨折の一つである.観血的整復固定術による骨片の解剖学的整復と強固な内固定と,早期運動療法を行う事により良好な機能回復が得られたので報告する.
【対象ならびに方法】
2003年6月以降,上腕骨遠位端骨折に対して観血的整復固定術を施行し,術後経過観察が可能であった10例である.症例は男性4例女性6例,受傷時年齢は27~87歳(平均56歳)であった.受傷機転は転倒6例,転落1例,自転車転倒1例,スノーボード中の転倒2例であった.骨折型はAO分類にてA2-2型1例,A2-3型2例,B3-1型1例,C2-2型6例であった.1例に橈骨遠位端粉砕骨折,2例に上腕三頭筋腱断裂,1例に変形性肘関節症を合併していた.術後経過観察期間は179日~817日(平均362日),作業療法実施期間は21日~335日(平均124日)であった.これらの症例について,経時的な可動域測定と日本整形外科学会肘機能評価成績・外傷(以下JOA score)を用いた治療成績の判定を行った.
【手術方法】
全例全身麻酔下に腹臥位にて肘関節後面より進入し,骨片の整復後内側および外側からのタ゛フ゛ルフ゜レート固定を行った. 関節内粉砕が高度であった6例に対して、肘頭骨切りによる展開術を施行し、上腕骨々接合後フ゜レートを用いて固定した.
【術後療法】
術翌日より肩・手および手指の積極的な可動域運動,浮腫コントロールを開始し,術後1週にて愛護的な肘関節自・他動可動域訓練を開始した.可動域運動開始初期は疼痛による防御収縮に配慮し,訓練前後の炎症症状に注意して行い,骨癒合と共に持続伸張運動を進めていった.筋力強化は骨癒合を確認し,状態に合わせて段階的に進めた,ADLへは負荷運動以外であれば積極的に参加を促した.
【結果】
全例において術後に骨片の転位は無く,良好な骨癒合を得た.肘関節可動域測定の平均は,術後2週にて伸展-29.5°,屈曲104.5°,術後4週にて伸展-27.2°,屈曲105.6°,術後8週にて伸展-22.6°,屈曲112.8°,術後12週にて伸展-19.3°,屈曲120.7°,最終評価時伸展-17°,屈曲124.5°であり,比較的早期より可動域を確保していた.JOA scoreは最終評価時,平均84点であった.内訳は,60点台1例,70点台2例,80点台4例,90点台3例であった.
【考察】
上腕骨遠位端骨折は,低位での骨折や骨幹端部の粉砕,または顆部の海綿骨の欠損等,高齢者では骨の脆弱性により強固な固定力を期待し難く,また、リハビリにおいても異所性骨化・筋の同時収縮等が起こり治療に難渋する事が多い.今回,観血的整復固定術による骨片の解剖学的整復と強固な内固定を行い,早期運動療法を行う事によって良好な機能回復が得られた.しかし数例に可動域確保に長期間を有し,より良い運動療法の検討に努めていきたいと考える.