九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 108
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肩関節拘縮に対するアプローチの一考察
*徳田 一貫近藤 征治菅川 祥枝宮本 崇司阿南 雅也城内 若菜佐々木 誠人川嶌 眞人
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抄録
【はじめに】
 肩関節拘縮は肩甲下筋腱や腱板疎部,関節包の炎症を起因とするものが多く,滑膜増生や組織の肥厚を認め,疼痛および関節可動域制限を呈する疾患である.本症例においても同様の症状を認め,動作能力や社会的参加に制限がみられた.そのため,生活背景や既往歴を踏まえ一次的な炎症後の拘縮由来の症状と二次的な代償動作の確立が肩関節に与える影響を考え,アプローチをした結果改善がみられたため以下に報告する.
【症例紹介】
 60歳代,女性.診断名は右肩関節拘縮.現病歴は平成20年2月頃農作業を行った後より右肩痛出現し始め,趣味のグランドゴルフの時に疼痛増強.平成20年5月頃当院受診し,運動療法開始となる.既往歴は右第1・3指腱鞘炎(平成19年).尚,ヘルシンキ宣言に基づき症例のインフォームドコンセントを得てから実施した.
【初期評価】
 疼痛は,安静時・夜間時・肩関節外転時に右上腕外側部にあり.ROMは右肩関節屈曲100°,外転70°,1st外旋25° ,2nd外旋35°(制限部位のみ記載).筋緊張は右大円筋,小円筋,右肩甲下筋,右大胸筋,右小胸筋,右前鋸筋,右母指球筋,右前腕屈筋群に筋緊張亢進あり.肩屈曲運動は右肩甲骨挙上・外転,体幹左側屈・右回旋し,上腕内旋位,肘関節屈曲・前腕回内位にて挙上を行う.肩外転運動は上部体幹左側屈・右回旋し,過度に肩甲骨上方回旋・外転させ,上腕骨頭の滑り込みがみられないまま行う.
【統合と解釈】
 安静・夜間時の上腕外側部の疼痛に関して,村上(1)は関節包と同部位脊髄神経の伝導路により上腕外側部と関連があると報告しており,炎症後の関節包肥厚による組織学的変化が上腕外側部の疼痛を誘発したと考えた.炎症後の一次的な拘縮由来の症状から二次的な筋の防御反応による代償動作の確立により拘縮に至ったと考えた。肩外転と屈曲時において小胸筋緊張亢進による肩甲骨前傾,前鋸筋・大円筋・小円筋緊張亢進による肩甲骨外転・上方回旋変位を認め,setting phaseにおける肩甲骨下方回旋の低下により上腕骨頭の滑り込み低下が生じたと考えた.また既往歴よりグランドゴルフのグリップにおいて第1・3指を過剰に働かせ前腕部のみでの手打ち動作により腱鞘炎に至ったと推察した。前腕部の筋膜ラインの影響から母指球筋の過緊張により,烏口突起に付着する上腕二頭筋短頭および小胸筋が相対的に伸張され肩甲骨前傾を招き,前腕屈筋群の筋緊張亢進により大胸筋が相対的に伸張され肩関節内旋位を招き,肩甲上腕リズムの破綻へと繋がったと解釈した.
【理学療法アプローチ】
 1.軟部組織,筋・筋膜リリース,2.上腕骨頭の滑り込み誘導,3.肩甲帯機能改善練習,4.ワイピング
【最終評価】
 疼痛は安静・夜間・運動時痛消失.ROMは肩関節屈曲170°,外転170°,1st外旋90°,2nd外旋90°.筋緊張は肩甲帯周囲筋の過緊張軽減.挙上・肩外転運動は肩甲骨・前腕部での代償が軽減し,上腕骨頭の滑り込みがみられた.
【引用文献】
 (1) 村上元庸・他:肩関節包の神経支配と疼痛発生機序.関節外科 16:923-931,1997
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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