抄録
【はじめに】
脳梁梗塞に伴い、脳梁離断症状を呈した患者に対し、視覚フィードバック・両手協調動作訓練および、Activity を実施することにより失行症状の軽減を図ることが出来た。そこで、作業療法(以下OTとする)の経過をまとめ、若干の考察を加えここに報告する。
【症例紹介】
60歳代 男性 診断名:脳梗塞(脳梁膨大部)現病歴:平成X年左腎腫瘍摘出手術中脳梁梗塞発症。以降PT・ST開始。X+7ヶ月後に自宅退院、1回/週リハビリ(PTのみ)継続していた。歩行安定性は向上していたが、左上肢の失行症状増強傾向にあったため、X+10ヶ月後よりOT開始(週1回40分)となった。主訴は左手が思うように動かない、Needは左手がスムーズに動くようになりたい。
【初期評価】
左不全麻痺 Br.stageVI-VI-VI、表在・深部感覚伴に左上下肢軽度鈍麻、左上下肢筋緊張亢進。高次脳機能は標準高次動作性検査より観念運動失行・拮抗失行・構成失行あり。FIM97点であり、ADLにおいて左上肢の失行(拙劣さ・錯行為)の為、監視~一部介助要す。
【経過】
OT介入場面では症例の心理的サポートを重視しながら、1)リラクゼーション、2)模倣動作訓練(視覚的フィードバック有り)3)物体の操作訓練(言語指示下,視覚的フィードバック有り)を実施。当初は模倣動作訓練等で無定形反応や錯行為が目立っていたが、鏡を用いることで自己修正可能となった。また、右手動作後左手動作を行うことで失行症状軽減。しかし、言語指示に対しては錯行為持続していた。約2ヶ月1)~3)のプログラム実施後Activity(革細工、裁縫、エコクラフト)導入した。錯行為のある場合は一時中断し、徒手的修正を加えながら実施した。介入3ヶ月後には標準高次動作性検査の左上肢の慣習的動作の口頭命令6/6から3/6、模倣6/6から1/6と誤反応率低下。また、FIM108点に向上し日常生活においても、「左手の動きが良くなった」と自覚有り。
【考察・まとめ】
今回アプローチに鏡を用いる事で、視覚的フィードバックによりボディイメージが確立し自己修正可能となった為、失行症状軽減に繋がったと考える。また、右手をモデルとすることで、視覚的に方向性や動作を確認することができ、左手の観念運動失行軽減に繋がったと思われる。更に、Activity導入後左上肢の言語指示・模倣動作誤反応率低下しているが、自然状況下に近く心理的緊張が除かれ両手強調動作が強化された結果、失行症状の軽減に繋がったのではないかと考える。当症例は観念運動失行や構成失行が軽減し、ADL面への影響が減少してきており、一定の効果が得られた。一方で、日常生活において依然左上肢の拮抗失行出現みられる為、今後対応方法を検討していく必要があると考える。