抄録
【目的】
我々は、平成16年より鹿児島県の高校野球選手に対するメディカルチェックによるコンディション調整を年2回行っている。肩関節回旋運動での投球側と非投球側の比較検討は諸家によりこれまで報告されているが、それは肩関節複合体(SHj)としての検討がほとんどで臼蓋上腕関節(GHj)と肩甲胸郭関節(STj)で測定している報告は少ない。今回我々は回旋及び水平内転の測定を行い、更に練習状況等も調査し若干の知見を得たので報告する。
【方法】
平成18~21年にメディカルチェックに参加した投手76名(年齢16.3±0.6歳、右投げ63名・左投げ13名)を対象にした。
調査は1.肩関節可動域:坐位で1st・2nd・3rdポジションでの内・外旋及び水平内転域をGHj・SHjで測定し、投球側と非投球側で比較検討した。2.アンケート調査:調査時点での傷害の有無・部位。更に投球フォームに関して、選手自身が投球の際に気をつけている点を聞き、投球動作周期で検討した。
【結果】
1.GHj外旋:投球側は1st・2nd・3rdそれぞれ68.4°±17.8・95.7°±10.6・98.9°±9.2、非投球側は69.3°±15.8・92.7°±8.3・96.6±7.1。SHj外旋:投球側は78.4°±14.3・113.8°±14.4・106.8°±11.1、非投球側は79.8°±12.6・107°±14.6・103.9°±9.1。GHj内旋:投球側は2nd・3rdそれぞれ34.3°±14・18.9°±20.5、非投球側は50.8°±14.4・31.1°±17.7。SHj内旋:投球側は66.7°±19.6・31.1°±22.4、非投球側は77.2°±17.1・42.3°±17.8。水平内転:投球側はGHj・SHjそれぞれ102.6°±9.7・129.3°±10.1、非投球側は107.5°±9.4・134.5°±13であった。2nd外旋SHj、2nd内旋GHj・SHj、 3rd内旋GHj、水平内転GHj・SHjに有意な差を認めた(p<0.05)。
2.傷害を有した者は、選手76名に対し28名で、肩・肘に問題のある選手は20名であった。投球フォームで約8割が「体の開き」や「リリースポイントを前に」など、コッキンク゛期及び加速期に注意をしていた。
【考察】
投球動作の反復により回旋可動域が外旋方向へシフトし、肩後方組織の伸張制限・拘縮による内旋制限を引き起こすとされており、今回の我々の調査においても同様の結果となった。水平内転における投球側の可動域低下も肩後方組織のタイトネスによる影響が大きいと考える。投球側と非投球側のSTjの可動域を算出すると、2nd内旋でその差が大きくなり肩甲骨の動きでGHjの制限を補足しているのではないかと考える。今後は、肩複合体として特にGHjへのより効果的なストレッチ指導の必要性を感じた。