抄録
【はじめに】
一般的に股関節疾患を有する患者は,股関節の変形により脚長差を生じ,骨盤・脊椎アライメントに影響を及ぼすことが知られている.今回,THA施行前後における前額面骨盤傾斜の変化を調査し,THAが骨盤アライメントに与える影響について若干の知見を得たのでここに報告する.
【対象・方法】
2008年3月以降に当院入院し変形性股関節症によりTHA施行された6症例,全症例女性,手術時年齢52~66歳,平均年齢64.3歳を対象とした.これらの症例に対して立位にて両下肢を肩幅に広げた姿勢で,両上前腸骨棘を結んだ線と水平線のなす角(以下骨盤傾斜角)を術前及び術後1週,2週,3週で計測し,術側傾斜をマイナス表示,非術側傾斜をプラス表示とし,前額面骨盤傾斜角の変化について調査した.また,術前後の脚長差についても計測した.統計処理はフリードマン検定・多重比較を用い,危険率は5%とした.
【結果】
脚長差は術前0.5~2.0cm,平均1.1cmと明らかな脚長差が認められたが,術後は0~0.5cm,平均0.4cmとほとんど認められなくなった.術前の前額面骨盤傾斜角は-5.0~-3.0度,平均-3.6度で,術前の骨盤傾斜は下肢短縮のある患側へ傾斜する結果となった.術後の前額面骨盤傾斜角は1週目-2.0~+4.0度,平均2.33度,2週目-1.0~3.0度,平均1.83度,3週目0~2.0度,平均1.5度であり,非術側に傾斜する傾向となった.術前及び術後1週,2週,3週についてフリードマン検定・多重比較を用いて危険率5%とし検定を行った結果,術前と術後1週目に有意差が見られた.
【考察】
術前の骨盤傾斜は下肢短縮のある患側へ傾いているが,THA施行後は非術側に傾斜し徐々に骨盤傾斜角が減少していく傾向を示した.術後,骨盤傾斜角が非術側に傾斜する要因として,立位時の術側の疼痛,術側に荷重する不安感などから術側荷重量不足による体幹側屈などの代償や,術側の股関節外転筋力低下が原因として考えられえる.術後,骨盤傾斜角が徐々に減少していく傾向を示した事について,疼痛の軽減により術側への荷重量が増大したことや術側の股関節外転筋力向上が関与しているのではないかと考えた.THAを施行し術側荷重量不足による骨盤・体幹での代償が生じ,これが腰痛の発生や歩容に影響を与える可能性がある.術後早期から術側への荷重を促し,姿勢の改善を図る必要があると考える.
【まとめ】
股関節疾患を有する患者は,術前の骨盤傾斜は下肢短縮のある患側へ傾き,THAを施行すると,術前と術後1週目で有意差がみられ,骨盤は非術側に傾斜する傾向がみられた.股関節疾患を有する患者に対して,脊椎・骨盤のアライメントを考慮する必要があると考える.