抄録
【緒論】
思春期腰椎分離症に対して、X線、CT、MRIによる画像診断、体幹装具療法、超音波治療など様々な診断、治療の有効性が報告されている。我々も第21回九州・山口スポーツ医・科学研究会において、思春期腰椎分離症を呈した症例に対し、MRI早期診断後、スポーツ中止、体幹装具、低出力超音波パルスによる早期治療を行い、椎弓分離部の骨癒合促進効果を報告した。
発生メカニズムは、オーバーユースの結果としての疲労骨折、また股関節周囲筋のTightnessによる腰椎への過負荷が影響していると報告されている。近年、体幹深部筋の弱化に起因したスポーツ動作時の体幹の不安定化もその一つとされており、腰椎分離症は複数の因子を包含して発生するものと考えた。
理学療法においては、股関節周囲筋のストレッチを中心とするアプローチのみに留まっており、明らかになりつつある発生要因の複雑性を考慮すると、十分な対応とは言えないのではないかと考えた。これは腰椎の伸展、回旋を伴う動作が分離症の増悪へと繋がる事、患部の安静が骨癒合に重要かつ不可欠な要素であり、積極的な運動、動作によりその安静が損なわれる事が危惧されているものと考えられた。
今回、思春期腰椎分離症を呈した症例に対し、股関節周囲筋のストレッチに加え、競技復帰後の再発予防を視野に入れた積極的な運動療法として体幹深部筋トレーニングを実施したので、その検討、若干の考察を含め報告する。
【対象と方法】
対象は、当院で腰椎分離症と診断された6例9椎弓、男性4例、女性2例、平均年齢は13.7±1.9歳であった。診断後、スポーツ活動を中止し、体幹装具作製、低出力超音波パルス治療、股関節周囲筋のストレッチ、体幹深部筋トレーニングの指導を行った。
【結果】
骨癒合率は、8/9椎弓で89%であった。骨癒合までの平均日数は、84.8±42.9日であり、その後全例1ヶ月以内にスポーツ復帰が可能となり、平均7.5ヶ月経過後の現在まで腰痛は認められていない。
【考察】
今回、思春期腰椎分離症を呈した6例に対し、股関節周囲筋のストレッチに加え、積極的な運動療法として体幹深部筋トレーニングを実施した。骨癒合率は89%、骨癒合までの平均日数は84.8±42.9日、その後全例1ヶ月以内にスポーツ復帰が可能となり、平均7.5ヶ月経過後の現在まで腰痛は認められていない。腰椎分離症の治療期間として、6ヶ月間が最もスタンダードな期間とされてきた事を考慮すれば、今回、競技復帰までの期間は短縮され、加えてその後腰痛が出現していないことから、無理なく競技復帰できたものと考える。治療期間の短縮は、早期診断、超音波治療の効果が推測できるが、今回、体幹深部筋トレーニングを運動療法に加えたことで、思春期腰椎分離症の本質的且つ包括的なアプローチに近づいたものと考えた。
しかし、その後の腰痛の経時的変化や再発率、パフォーマンスへの影響などに不明点が多く、今後縦断的研究も視野に入れて検討を重ねる必要性が示唆された。