抄録
【はじめに】
今回、変形性股関節症にて右寛骨臼移動術の手術を受けた症例を担当する機会を得た。本症例はDuchenne歩行を呈し独歩困難であった。このような症例に対して3次元動作解析装置による歩行解析を行い、その結果を踏まえ術側立脚期の改善に向け理学療法介入した結果、歩行能力の改善が得られたので以下に報告する。
【症例紹介】
29歳女性(159cm、47kg)。3年前より右股関節痛出現し、平成19年12月頃より安静時痛出現。平成21年9月にA病院にて右寛骨臼移動術施行。術後2週より1/3PWB歩行、術後5週でFWB歩行開始。術後7週で退院となり、当院での外来理学療法開始。平成21年1月(術後18週)より屋内・屋外歩行がT字杖にて可能となった。
【方法】
片松葉杖歩行レベルであった術後15週(A期)とT字杖歩行レベルであった術後27週(B期)の杖なし歩行を3次元動作解析装置(VICON MX)・床反力計(AMTI社製)にて計測した。分析項目は、歩行速度、右側の立脚前期(1相)・立脚中期(MS)・立脚後期(2相)の床反力作用点(左右:COP-x、進行方向:COP-y)の変化、MSの鉛直方向床反力(Fz)・股関節内外転角度と外転モーメント・体幹関節角度でありA期とB期を比較した。
【理学療法アプローチ】
1.股関節ROM訓練 2.下肢筋群のリアライメント 3.筋力増強訓練(OKC,CKC) 4.ステップ肢位での重心移動 5.歩行訓練 6.水中歩行
【結果】
歩行速度はA期0.71m/sec.B期0.9m/sec.であった。COP-xはA期24cm(1相:右側へ21cm、2相:左側へ3cm)・B期15cm (1相:右側へ15cm、2相0cm)、COP-yはA期38cm(1相26cm、2相13 cm)・B期49cm (1相38cm、2相11cm)であった。MSの床反力はA期395.42N・B期441.01N、股関節内外転角度・股関節外転モーメントはA期(1.1°外転・5.5Nm)・B期(1.7°内転・27.5Nm)、体幹角度(前後・側屈・回旋)はA期(後傾4.2°・右側屈9.5°・左回旋6.4°)・B期(後傾1.8°・右側屈8.7°・左回旋3.1°)であった。
【考察】
B期で歩行速度が改善した要因として、MSの右股関節外転モーメントが約5倍増大し股関節の側方制御が改善したことが考えられる。このことは、MSにおけるFzの11.5%増大や、右側へのCOPの変位が減少したことに影響し、結果として進行方向へのCOPの推進に寄与したものと考えられた。また、パッセンジャーである体幹のアライメントは下肢の筋活動に影響するとされており、本症例も杖歩行期では前後・側方・回旋いずれの角度も重力ラインに近づくような変化があったため、これらが下肢の筋活動に影響したのではないかと推察した。