抄録
【はじめに】
母指CM関節症は、手術療法を行うことによって術前に問題とされる母指使用時の疼痛緩和は期待できる。しかし、術後は長母指伸筋腱(以下EPL)・短母指伸筋腱(以下EPB)の癒着や母指MP関節伸展拘縮が発生し、二次的な機能障害を起こすことがある。これに対し我々は、術後早期より母指MP関節の屈曲運動とEPL・EPBの滑走運動を行い、術後予測される拘縮を予防したので報告する。
【対象・術式】
全例において本報告での同意を得た。対象は、平成18年から20年の間に母指CM関節症にて第1中手骨楔状骨切り術もしくはCM関節固定術を施行し、セラピィを終了した17例20指である。全例女性、手術時年齢は平均63.5歳、手術手は利き手8例、非利き手6例、両手3例であった。Eatonの分類でstage2の5指は、第1中手骨楔状骨切り術を施行し、stage3の9指stage4の6指はCM関節固定術を施行した。
【方法】
まず術後翌日に骨切り術を施行した5指は母指CM・MP関節の固定装具、関節固定術を施行した15指は手関節から母指MP関節までの固定装具を作製した。また、浮腫の軽減を目的とした示指から小指の自動運動と患手挙上を徹底させた。母指の運動も術後翌日からを原則とし、セラピストが母指中手骨を掌背側から把持し骨接合部への負荷を減少させて以下の運動を行った。1.MP関節単独の他動屈曲運動、2.EPL・EPBを遠位滑走させる目的でMP・IP関節の同時他動屈曲運動、3.EPL・EPBを近位滑走させる目的でMP・IP関節の軽い自動伸展運動。その後は骨の癒合状態により装具除去時期やADLでの使用を判断した。
【結果】
全対象指の訓練終了時もしくは抜線時の%TAMは、平均95.1で90以上が14指であった。また、その際のMP関節単独での屈曲可動域の対側との差は、15度以下が17指、15度以上が3指であった。15度以下の17指は術後早期からセラピィが導入でき、15度以上の3指は早期退院や銅線刺入部での疼痛などの理由から、術後早期からのセラピィ導入が困難であった。この3指は全てMP関節の授動術を追加している。全例骨癒合を得られ、CM関節の疼痛は緩和している。
【考察】
解剖学上EPL・EPBは母指中手骨の背側を走行しており、骨切り術や関節固定術後は腱癒着が必発する。特にEPBは手術創下に存在するため強固の癒着を起こし、MP関節の伸展拘縮を誘発すると考えている。これらに対し術後早期から運動する我々の方法は、骨癒合やCM関節の疼痛緩和を阻害することなく、予測される拘縮を予防でき、有効な運動方法だと考えられた。しかし、MP関節の伸展拘縮が生じ授動術を追加した3指も存在した。特にCM関節固定術例においては、MP関節の伸展拘縮は示指から小指までの対立動作が不十分となり二次的な機能障害をきたし易い、今後はMP関節屈曲位でのスプリント固定などの検討が必要と考えられた。