抄録
【はじめに】
橈骨遠位端骨折の機能的予後予測にX線所見による評価が有用であるとされている。今回、観血的治療を施行された症例を対象に機能予後との関係因子を比較検討した。
【対象】
H20年4月からH21年4月までに当院で橈骨遠位端骨折の観血的治療を行った症例10例(男性2例・女性8例)、平均年齢71歳。右7関節・左4関節、利き手6例・非利き手3例・両側手1例で、plate固定9例・創外固定1例。経過観察期間は平均8.5ヶ月。又、今回、比較対象を健常群10例、平均70.8歳とした。
【方法】
ROM、握力計測、DASHを用いた。又、X線所見において最終評価時のdorsal tilt、radial shortening、radial deviationを計測し、危険率5%未満にて比較検定した。尚、全ての対象者よりインフォームドコンセントを得た後に実施した。
【結果】
1)ROM 単位:度
骨折群 背屈:48.6、掌屈:45.9、橈屈:15.0、尺屈:26.8、回外:62.3、回内:54.5
健常群 背屈:80.9、掌屈:78.6、橈屈:30.0、尺屈:54.5、回外:101.4、回内:92.7
すべてのROMにおいて有意に低下。(p<0.01)
2)X線所見
dorsal tilt:4.3mm、(背屈:r=-0.25、掌屈:r=-0.17)、
radial shortening:-0.4mm、( 背屈:r=0.28、掌屈:r=0.21、橈屈:r=0.15、尺屈:r=0.67)
radial deviation:0.26mm、(背屈:r=-0.06、掌屈:r=-0.18)
相関なし。
3)握力
骨折群握力:12.8kg、健常群握力:20.7kg、有意に低下。(p<0.01)
4)DASH 平均:17.6点 相関なし。
【考察】
橈骨遠位端骨折後のX線所見は関節の変形を把握するうえで重要である。特にDorsal tiltは機能的予後に影響があるとされている。しかし、今回の健常群との比較において手関節ROMと握力で有意に低下が認められるも、X線所見とROMとの間に相関性は認められなかった。運動学的に手根中央関節による代償運動の影響が大きいと考える。又、ROM制限、握力低下においては対象者の年齢を考慮すると今回の評価期間が短く、回復が充分でなかった事が考えられる。さらに、DASH項目の中で、「きつめのまたは新しいビンのふたを開ける」、「重いドアを開ける」などの筋力を要する動作が困難傾向であった。要因については背屈・尺屈・回外などのROM制限や握力低下によるものと考える。それ以外の動作は、比較的良好な結果であった。一般にDorsal tilt10°以内の手関節屈曲の予後は良好であるとされている。今回の症例においてもDorsal tilt10°以内にてADL障害は軽度と考える。しかし、手関節におけるdorsal tiltの増大、radial shorteningはpower grasp障害に繋がる事が予測される。今後、手関節の予後について、さらに検討したいと考える。