抄録
【はじめに】
当院では橈骨遠位端骨折術後の症例に対して,術後3・6・12ヵ月の時点で評価を実施している.これは術後の経過とその特徴を把握し,臨床における患者へのフィードバックに活用するためである.また,橈骨遠位端骨折術後の短期的な治療成績の報告は多くあるが長期的な報告は少ない.そこで今回,術後の経時的な治療成績を調査し,得られたデータを基に日常生活の進行状況を含め検討したのでここに報告する.
【対象】
平成18年10月から平成20年11月までの期間に,当院で掌側ロッキングプレートによる骨接合術を施行した43例のうち,評価可能であった27例27手.内訳は術後3ヵ月27例27手(平均年齢65.9歳),術後6ヵ月24例24手(平均年齢64.0歳),術後12ヵ月10例10手(平均年齢58.7歳)である.
【方法】
術後3・6・12ヵ月の時点で疼痛評価(Visual analog scale;VAS),手関節・前腕の自動関節可動域(日整会),前腕中間位・回内位・回外位での握力測定(酒井医療社製デジタル握力計),上肢障害評価として日手会版DASH(以下DASH)の機能/症状を実施した.そして可動域,握力の健側比平均値とVAS,DASH合計点の平均値を求めた.更にDASHに関しては,詳細な分析を行うために各質問の平均値を算出し,術後3・6・12ヵ月で比較した.データ分析には分散分析(p<0.05)を用いた.
【結果】
今回の調査では,全項目において術後経過が進むにつれ改善がみられた.術後3から6ヵ月(以下前半期)にかけて,疼痛が 1.8点から0.8点,橈屈が70.1%から96.3%,回外が89.1%から95.1%とより改善していた.中でも橈屈は有意に高い値を示した.また,術後6から12ヵ月(以下後半期)においては,回内が90.4%から94.8%,回外位握力が75.5%から87.3%に改善し,握力は有意に高い値を示した.DASHの内容に関しては「鍵を回す,重い物を運ぶ,レクリエーション活動をする,障害により仕事・日常生活に制限があったか,腕・肩・手に痛みがある」という項目で有意に低い値を示した.
【考察】
今回特徴的であったのは,橈屈が他の運動方向に比べ前半期により改善し,回外が早期に改善していることであった.これは手術により方形回内筋を切離するため,疼痛や回内筋力低下により回内よりも回外の改善が早期に生じたと考える.また回外運動には長母指伸筋や橈側手根伸筋が働くため,回外の改善が橈屈運動を助長し,今回の結果に至ったのではないかと考える.
日常生活については術後3ヵ月の時点で,筋力や可動域を必要とする動作,前腕運動を伴う動作,衝撃のかかる動作が困難であった.これは後半期で回外位握力が有意に高い値を示していたことから,回内筋力の向上が考えられ,その改善により手関節の安定性が向上し,それらの動作が改善したものと考える.