主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士協会九州各県士会
【目的】
今回,長期入院の統合失調症患者に対する作業療法導入及び,家庭用ゲーム機を用いた対人交流・コミュニケーション能力へのアプローチを行った.そこで日々の活動場面より評価を実施し効果判定を行う事にした.
【対象】
50歳代・男性・統合失調症.入院より約16年間特に何の活動に参加する事もなく病棟生活を過ごしており,自己の要求・欲求以外の事に関する意欲の低下がある.また長期入院により対人交流・コミュニケーション能力の低下が見られる.
【方法】
作業療法導入より週3回(セミクローズドグループ)にて参加を開始し,週2回は自発的に活動を選択し行う創作活動,1回はスタッフが準備したレクリエーションを行う.家庭用ゲーム機導入後は,週1回のペースにて家庭用ゲーム機を用い対人交流・コミュニケーション能力へのアプローチを行い,他の2回に関しては上記の2つの活動を継続しH20.04~H21.03の期間にて行う.
また活動中の様子に関してはICFに即した8項目(1活力 2精神的安定性 3思考機能 4課題遂行 5ストレス対処 6対人関係 7コミュニケーション 8耐久性),5段階評価により評価を行い経過記録として記録する.評価点に関しては月に1回集計を行い,月毎の平均点数の変化を調査する.本研究に関しては主治医・対象者・保護者に対し許可を得た上で行う.
【結果】
作業療法導入時と開始12ヶ月後を比較するとスタッフに対する帰棟要求が聞かれなくなり,終了時間に対する強い執着心が緩和された.また,課題遂行項目が1.31→0.92,ストレス対処項目が1.77→1.00,耐久性項目が0.92→0.00と変化している.
対人交流技能面においては,家庭用ゲーム機導入前と導入1年後を比較すると対人交流項目が1.77→1.00,コミュニケーン項目が1.00→0.85と変化した.活動中の様子においては,自発的に参加メンバーを募る・他患者に対しゲームの使用方法を説明する等の場面も見られているが,他患者に対する言葉使いに関しては粗暴さも見られている.
【考察】
作業療法導入時と比較すると耐久性が向上しスタッフに対する訴えが減少した.要因として,作業療法活動そのものが生活サイクルの一部となった事・集団の中で過す事により協調性が育まれ周囲に対する適応能力が向上した事が考えられる.
また,対人交流・コミュニケーション項目において上記の変化が見られた背景には,症例本人が使用した家庭用ゲーム機に対する興味・関心があった事,ゲーム性の中にスポーツ特有のルールという明確な枠組みが存在した事,使用した家庭用ゲーム機が複数人で楽しむ要素を持ち合わせた事などが考えられる.
【まとめ】
上記の様な変化は見られたものの,課題として他患者に対する適切な言葉使い等が挙げられる為,今後はケースバイケースでの対応・正のフィードバックを重視しながら更なる対人技能向上にアプローチする必要がある.