抄録
【はじめに】
家庭復帰を希望される片麻痺の車椅子利用者様で、独居生活もしくはお一人で過ごされる時間が長い利用者様にとって、トイレ動作の自立は重要な課題である。従来、トイレの手すりとしては、便座に座って非麻痺側の壁にL字手すりを設置するケースが多く見られているが、この環境だと立ち座り動作や移乗動作の補助にはなるが、立位保持の際に非麻痺側上肢の動きが制限され、下衣の上げ下げ動作が困難になる。そこで、便座に座って麻痺側に壁から離したL字手すりもしくは縦手すりを設置し、手すりの縦部分で麻痺側の胸部もしくは頭部を支持して、自由度が高くなった非麻痺側の上肢で下衣の上げ下げ動作を容易にするという麻痺側支持型手すりを考案し、昨年の九州学会にて報告した。これによって、下衣の上げ下げ動作が自立し、従来の手すりでは困難だった5例の利用者様の家庭復帰を達成することができ、麻痺側支持型手すりの有効性を認めた。今回さらに手すりの改良と早期の自立を目指した戦略を考案したので報告する。
【手すりの特徴】
一般的なL字手すりの設置基準とは異なる部分が多い。手すりの縦部分は一般的な位置よりも壁から離し、便座の側端から5cm、前端から15cm程度にする。便座から離れると回転動作や便座からの立ち上がり動作が困難になるので注意する。縦部分の下端は、床から70cm程度とし、上端は床から140cm程度とする。横部分は必ずしも必要ではない。本人の体格や能力に応じた微調整をする必要がある。また、支持部分にバスマットなどの素材を当てて、体重支持がしやすいようにする。
【リハビリメニュー】
動作能力としては、つかまり立位保持、移乗動作、逆移乗動作が自立していることが条件である。 立位バランスを重視し、麻痺側下肢に重心を移動できるようにリハビリを行う。具体的には、1.立位での膝屈伸運動、2.前後左右への重心移動、3.セラバンドを使った下衣の上げ下げ動作の練習、4.逆移乗動作の練習を行う。
【考察】
麻痺側支持型手すりは、トイレ動作自立に向けて、特に独居生活の方のトイレ手すり設置方法の有効な選択肢となるのではないかと考えられる。適応がうまくいけば、長期施設待機ではなく家庭復帰に結びつけることができ、その方の今後の人生にも影響を及ぼすといっても過言ではない。また、長期施設で生活される方にとっても、トイレ動作の自立もしくは介助量軽減は、QOLの向上に寄与することができると思われる。
今後の課題としては、動作を早期に獲得するために、他職種への指導を行い、全職員でアプローチすることが大切である。そして、身体機能評価・住環境評価・リハビリテーションプログラムをシステム化することができれば、片麻痺で車椅子利用者様の、トイレ動作の早期自立が可能であると考える。