抄録
【はじめに】
回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)は,疾患により障害を呈した患者が,社会及び自宅復帰するための大切な役割を担っている.そのためにも,患者と病棟スタッフが共通の目標をもち,患者の能力を病棟生活動作で発揮することは必要である.
今回,患者・家族と共通の目標をもつこと,リハと病棟スタッフ間の情報伝達が不十分であり患者の能力に応じた介助が出来ていないという問題がみられたため,回復期リハ専従セラピストが中心となって病棟ADL実施表を作成,また,取り組み前後でアンケートを実施したため,その結果に若干の考察を加えここに報告する.
【目的】
患者と病棟スタッフとの共通目標を明確にし患者の主体的な生活の再獲得を支援する.リハと病棟スタッフ間の情報交換を密に行い病棟生活リハビリの機会を増やす.
【内容】
病棟ADL実施表:A4用紙に15×15mm程度の大き目の文字で,患者のADL介助上の注意点3~5個程度を担当回復期リハ専従セラピストが記入したもの.病棟での目標,訓練内容,介助方法,禁忌・注意点の項目よりなる.
【対象】
当院回復期リハ病棟36床に入院中の患者に対し平成21年2月4日より約5週間実施.各患者の消灯台に掲示した.なお,掲示については院内個人情報保護規定に従い,各患者の同意を得ている.
【方法】
病棟ADL実施表使用前後での意識調査を目的として,5段階の選択肢及び自由記載による質問紙を配布し,留め置き法にて回収した.対象は当院回復期リハ病棟勤務の看護師14名,介護職員8名.
【結果】
1.患者様のADL能力を知っていますか?使用前(よく~だいたい知っている91%)使用後(よく~だいたい知っている91%)2.患者様のADL能力を考えて介助を行っていますか?使用前(よく~だいたい考えている91%)使用後(よく~だいたい考えている100%)3.病棟ADL実施表を見ましたか?使用後のみ(ほぼ毎日~ときどき見た91%)4.病棟ADL実施表の必要性を感じたか?使用後のみ(感じる100%)使用前後での大きな変化はみられなかったが,全体的に肯定的な回答であった.その他に,病棟ADL実施表はポイントを押さえてわかりやすく書いてほしい,文章より絵で描いてある方がわかりやすい,回復期カンファレンスの再開を希望するといった意見が挙げられた.
【考察とまとめ】
取り組みにより病棟スタッフが病棟生活リハビリの必要性を感じていることを知ることができたが,提供した内容に従った病棟生活リハビリの実施,介助方法の統一は不十分な状況である.今後は,病棟ADL実施表の記載内容を再検討し,患者の最大能力を病棟生活で発揮できるような環境を調えていく必要がある.また,並行して患者満足度,FIMを検証し病棟ADL実施表の客観的な効果判定を行っていきたい.