抄録
【はじめに】
Barthel index(以下BI)の更衣の項目では“標準的な時間”という表現で点数の区分がなされているが,更衣所要時間に関する報告は少ない.そこで,更衣所要時間に着目し調査を行い,若干の知見を得たので考察を加え報告する.尚,対象者には本件に関し十分説明し同意を得た.
【対象】
当院入院中の脳卒中片麻痺患者でBrunnstrom stageは上肢,手指ともにV以下でBIの更衣が自立している40名を対象とした(高次脳機能障害を有する者も含む).内訳は男性21名,女性19名,平均年齢66.1±12.4歳.麻痺側は右20名,左20名.利き手は麻痺側18名,非麻痺側22名.使用手は,非麻痺側片手動作19名,両手動作21名である.
【方法】
ベッド端座位でパジャマを脱いで再度着るまでの一連の動作をビデオに撮影し所要時間を計測した.また対象者の身体機能,精神機能,高次脳機能障害について調査を実施し,対象者に対して更衣場面の感想を聴取した.
更衣所要時間の指標として平均値を算出し,統計処理にはt検定を用い有意水準は5%未満とした.
【結果】
更衣所要時間はtotal 197秒(片手245秒 両手154秒),上衣着衣83秒(片手109秒 両手60秒),上衣脱衣33秒(片手39秒 両手27秒),下衣着衣47秒(片手61秒 両手34秒),下衣脱衣27秒(片手31秒 両手23秒)であった.麻痺側参加状況と各所要時間において有意差を認め,両手動作での所要時間は大幅に短縮した.利き手別,麻痺側別と各所要時間では有意差を認めなかった.高次脳機能障害の有無とtotal,着衣上衣の所要時間において有意差を認めた(p<0.05).
【考察・まとめ】
今回の調査では上衣着衣に最も時間を要す結果となり,更衣所要時間には麻痺側使用状況や高次脳機能障害が大きく関与していた.上衣着衣に時間を要する対象者に共通していた点は,麻痺側上肢を袖に通す過程の困難さであった.さらに,麻痺側上肢の袖を通した際に,肩まで袖を通さずに非麻痺側上肢を通し始める為,襟ぐりや袖のねじれを何度も修正する点であった.これらの要因として,麻痺側随意性の低下により上肢の挙上が困難であること,注意障害や半側空間失認の為,麻痺側上肢に対する認識低下や注意力低下が考えられた.
更衣評価後の感想では,平均より時間を要する者に「時間がかかり疲れる」等の苦痛を伴う意見が聞かれ,そのほとんどが上衣着衣に対するものであった.今回得られた片手動作,両手動作それぞれの所要時間を目安に両手動作や麻痺側上肢の随意性および麻痺側身体認知に対するアプローチを行い,スムーズな更衣動作の獲得を目指し,患者の苦痛軽減に繋げていきたい.