主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士協会九州各県士会
【はじめに】
脳卒中片麻痺患者にとって、日常生活で下肢装具の果たしている役割は大きい。今回、右片麻痺、重度感覚障害を有し、長期経過の中で反張膝を呈した症例に対し下肢装具の重要性を検討したので報告する。
【症例】
40代後半主婦。H8年3月高血圧性脳出血(左被殻部)右片麻痺発症にてA病院入院。4月血腫除去術施行。同年5月、リハ目的でB病院入院。Br.stage 上下肢 II、右半身表在・深部共に重度鈍麻~脱失。右上下肢低緊張 Barthel index(以下BI)60点 車イス移乗、駆動 要少介助 歩行困難。
H10年1月、自宅退院。Br.stage 上肢 III 下肢 IV 感覚著変なし。動作時の右足内反底屈緊張強く、右下肢荷重時膝ロッキング(伸展0°)。Shoe horn装着一本杖歩行 屋内軽介助~監視にて可、屋外要介助、BI 80点。自宅退院後は当院外来リハ継続し、可能な家事を行い、活動的。屋内杖なし歩行まで可能となる。在宅生活おける活動性向上に伴い立位動作機会増。日常、装具は軽量で固定力の少ないRie-strapを汎用され、外出時のみShoe horn使用。
【経過】
H15年頃より歩行時の右膝外側スラスト、膝ロッキングによる右立脚期の不安定性が目立ちはじめる。退院時より14kg体重増加。固定力強い装具提案するも本人拒否。右靴に外側フレア設置にて対応。H18年頃より転倒増。右反張膝15°に達し、装具再検討。H19年5月、反張膝矯正ベルト付きSemi Long Leg Brace(以下LLB)を作製。ズボン内側縫い目にファスナー設け、常用を促した。日常屋内活動では、LLB用いずRie-strap使用継続。徐々に右下肢支持性不安定となりH20年12月右下肢痛増強、歩行困難となる。BI 65点。H21年1月、LLBの必要性を説得し、日常使用開始。右下肢痛改善、BI 85点となる。
【考察】
本症例は、重度右片麻痺、感覚障害、生理的関節の柔軟性、体重増加、そして家事遂行に伴う活動量の多さが長期的経過の中で反張膝を生じさせたと思われる。今回、自力脱着可能で常用的な反張膝のコントロールのための装具選定、導入に時間を要した。臨床場面では障害程度による将来的な関節変形等が予測される場合でも装具の必要性認識の乖離がPTと患者で存在することが度々ある。最終的には転倒増加や痛みの出現により装具必要性の本人理解を得、ADLレベルの維持につながったが、長期的視点で身体機能の変化を捉え、適応装具の提案と必要性を患者に伝わるよう理解を求める努力は重要である。