主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士会九州各県士会
【はじめに】
日々の臨床の中で疼痛を訴える症例は多いが、疼痛の発症期間が長ければ長いほど疼痛への対応が困難であると感じる。また慢性疼痛の場合、画像所見と疼痛部位が一致しない事もあり、さらに局在性が無い症例や再現性が低い症例も多く、疼痛の原因を検査する事が困難な場合が多い。国際疼痛学会による痛みの定義では痛みに心理的側面が関与している事を述べている。今回、筋・骨格系の痛み以外にも疼痛を引き起こす心理的因子があると考え慢性疼痛を訴える症例に対し痛み及び心理的評価を行いその関係性を調べたのでここに報告する。
【対象】
当院及び他医院の2施設で、疾患は問わず疼痛が3ヶ月以上持続している外来患者36名(男性6名、女性30名)を対象とした。平均年齢は74±8.6歳であった。
【方法】
痛みの検査はvisual analogue scale(以下VAS)、局在性の有無を確認した。心理的因子として抑うつ状態の検査をCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(以下CES-D)を用いて行った。また、不安に陥りやすい性格についての検査を日本語版State Trait Anxiety Inventory(以下STAI)特性不安要素を用いて行った。CES-Dの結果を用いて抑うつ無し群と抑うつ群に分けた。また、STAIの平均値を算出し平均値以下の群を不安低得点群、平均値以上の群を不安高得点群に分けた。それらの結果から「抑うつ無し・不安低得点群」と「抑うつ・不安高得点群」に分けこの2群間での年齢、VASの値を比較検討した。統計学的処理はMann-WhitenyUテストを用いて行った。さらに、CES-DとSTAI特性不安要素の相関関係をスピアマンの相関係数を用いて調べた。
【結果】
全被験者36名のうち局在性があると答えたものは3名であった。「抑うつ無し・不安低得点群」は23名、「抑うつ・不安高得点群」は13名であり年齢に統計学的有意差は認められなかった。VASの平均値は「抑うつ無し・不安低得点群」5.1±1.7、「抑うつ・不安高得点群」7.0±2.5であり有意な差が認められた(p<0.05)。また、CES-DとSTAI特性不安要素には相関係数0.76で強い順相関がみられた(p<0.05)。
【考察】
今回の結果から、慢性疼痛患者では抑うつ不安傾向が強い症例ほど痛みを強く感じている事が示唆された。またほとんどの症例に局在性がなかった事から慢性疼痛患者では組織損傷による痛み以外の因子が関与している事が考えられる。以上の事より慢性疼痛を訴える症例の場合、筋・骨格系などの組織障害による痛みだけではなく心理的な痛みがある事を考慮して両方の側面からアプローチしていく事が必要であると考える。