抄録
【はじめに】
変形性股関節症(以下,変股症)の臨床指標として一般的に片脚立位が行われている.しかし,その評価の捉え方は股関節外転筋群の量的な側面が強く,安易に股関節外転筋群の筋力低下に結び付けてしまっていることは,臨床上少なくない.また,変股症に対する理学療法の即時効果について,片脚立位をアウトカムにしている研究は散見される程度である.今回,片脚立位を臨床指標とし,表面筋電図(以下,EMG)及び運動学的分析により理学療法介入前後の変化について比較検討したため以下に報告する.
【方法】
対象は保存療法目的の初期変股症患者.本研究はヘルシンキ宣言の主旨に沿って実施し,当院の倫理委員会の承認を得た上で実施した.課題動作は,両上肢を前方に組んだ立位にて,片脚立位を実施した.課題動作における姿勢戦略は被検者の任意とした.まず,EMGの計測にはメディアエリアサポート社製EMGマスターKm-818Tを用い,サンプリング周波数は1000Hzとした.中殿筋,大殿筋,大腿筋膜張筋(以下,TFL)の計3筋を被検筋としEMGを測定した.また,骨盤傾斜角度の計測として,被検者の両ASISに30mmのマーカー貼付.前方より被検者の重心の高さに設定したデジタルビデオカメラにて撮影.その画像から臨床歩行分析研究会の推奨する推定式にて骨盤傾斜角度を算出し,課題動作中の角度の変化について検討した.上記の測定項目について,理学療法介入前後で比較検討した.なお,理学療法介入は徒手にて股関節周囲のリラクセーションを実施し,股関節の機能的連結の改善を目的とした運動療法を20分間実施した.
【結果】
右片脚立位の右TFLの%IEMGは治療前が81%であり,治療後は56%に減少した.右中殿筋の%IEMGは治療前が54%であり,治療後は88%に増大した.大殿筋の%IEMGは治療前が141%,治療後は136%と大きな変化はみられなかった.また,右片脚立位における骨盤傾斜角度は,治療前は動作中反対側に最大7°傾斜したのに対し,治療後は反対側に5°傾斜した後,右側へと4°傾斜した.
【考察】
今回の結果より,変股症の片脚立位の特徴として,骨盤の反対側への傾斜に対しTFLに依存した姿勢制御を行っていることが推察された.これは,股関節内転位となり骨頭の被覆率が低下することで,TFLが過剰収縮し股関節を内旋させて股関節の安定化を高めた姿勢制御を行っていると推察した.TFLのリラクセーションや骨盤-股関節の機能的連結を促すような理学療法を実施した結果,TFLの活動が低下し,中殿筋の活動が高まり,股関節における構造的安定化及び筋の能動的な安定による片脚立位が可能になったと推察した.
【まとめ】
今回変股症患者に対して,片脚立位を臨床指標とし筋電図及び運動学的分析により理学療法の即時効果について検討した.変股症に対する理学療法として,筋の質的側面も考慮し,股関節における機能的連結を図るような訓練を実施する必要があると考えられる.