九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 8
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通所リハ1事例における作業療法実践
デマンドが聴取できないクライアントに対する作業療法の経験から
*田村 浩介原田 伸吾
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キーワード: デマンド, 作業科学, 機能
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抄録

【目的】
 筆者は作業療法実践と事例研究において作業の意味を考えることを重視してきた.あるクライアントはインタビューで自身の作業について話し,作業を再獲得することが出来た.しかし,一方でデマンドを聴取できないケースも経験してきた.
 今回はデマンドを聴取できなかったケースである.この作業療法の経過を報告し,作業の意味・機能・形態について考えることの重要性について考察する.
【方法】
 A氏は,通所リハビリテーション(以下,通所リハ)に通う60歳代後半男性である.X年,脳梗塞発症,右片麻痺が残存.退院後,通所リハ利用開始.現在,週3日利用,妻と2人暮らし.要介護度2.右利き.
 利用開始当初は車を運転したいと話した.A氏の家族は車の運転に反対,高次脳機能検査の結果,注意力障害と判断し,本人と家族へ説明,A氏は車の運転を諦らめた.
 主観的評価としてカナダ作業遂行測定(以下,COPM)を実施,「特にやりたいことはない.今のままで満足している.」と話した.客観的評価としてFIMは115/126.ブルンストロームステージ上下肢手指共に_III_.表在覚,上肢中等度から重度鈍麻,下肢軽度鈍麻.姿勢反射頸部,体幹の立ち直り共に右側陰性.歩行は短下肢装具,T字杖使用し自立.
 筆者は右上肢使用困難,独歩で移動可能,注意力は日常生活上問題ないことから左上肢でデジタルカメラを使用し写真撮影が可能であると判断.A氏はデジタルカメラを購入した.
【結果】
 左上肢で写真を取る方法を練習し獲得した.「孫を撮ってみようかな」と話し次第にカメラを取り出して触るようになった.ある日,孫の写真を撮った.プリントアウトを覚え,孫の写真を嬉しそうにプリントアウトするようになった.また「家族にもと喜ばれた」と話した.今後は「旅行の時に写真を撮りたい」「外食して美味しい料理やお店を写真に撮りたい」と話した.
【まとめ】
 今回,やりたいことが特にないというクライアントに対して,デジタルカメラで写真を撮るという作業を提案,作業を共に練習した結果,クライアントの自己有能感が改善し,意志を促進できた.
【考察】
 今回,写真を撮るという作業は趣味となることが期待できるだけではなく,他者との交流手段となることも考えた.また,A氏にとって家族との生活の記録としての意味づけがされたと考える.その後のインタビューで「以前はやりたいことはあったが言ってもしょうがない」と諦めていたことがわかった.やりたい作業を諦めさせられた経験から主張することを抑えていたと考えられる.インタビューでデマンドが聴取できない場合,その理由を明らかすることも重要であると考える.また,作業の機能とクライアントの遂行技能を照らし合わせ,作業の形態を調整し作業を提案すること,またこれをきっかけとして作業の広がりを期待することができると考える.

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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