九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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近赤外線分光法(NIRS)は認知症診断の一助になり得るか
*吉原 直貴久保 美華
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抄録

【はじめに】
当院は市内34ヶ所あるものわすれ外来協力医療機関として機能している。外来受診時の診断方法として、神経学的診察、血液検査、頭部CTが挙げられる。また診断の補助としてOTではOLD、MMSE、FAB、CDRを実施している。そして知り得た情報を基に総合的に判断している。今後、より多角的に検討していくために「近赤外線分光法(NIRS)がそのひとつになり得るか」をテーマに考察したので以下に報告する。
【対象】
脳損傷の既往のない健常者30名(男性11名、女性19名、平均年齢26.9±5.7歳)であり、全例右手利きであった。
【方法】
計測機器は日立メディコ製の光トポグラフィ装置(ETG-4000)を使用し、課題遂行時の前頭前野のOxy-Hb変化について検討した。計測課題として意味カテゴリー課題(動物および野菜の語想起)をそれぞれ行い比較した。また語産生数を記録した。計測は椅子座位(顎台にて頭部を固定)にて行い、安静条件30秒(あいうえおの復唱)、課題条件30秒を2回交互に行った。分析は、計測したプローブのうち前頭前野に相当する18チャンネル(以下、ch)のOxy-Hb変化量を比較した。
【結果】
対象者30名における動物および野菜の語想起課題遂行中のOxy-Hb変化量を加算平均し、t検定を行った。この結果、前頭前野18ch中10chで野菜課題と比較し、動物課題の方が有意に高い値を示した(p<0.01)。平均語産生数は、動物は20.1±5.8語、野菜は16.9±3.4語であった。また、性別の影響はないか検証した結果、動物課題では有意差はみられなかったものの野菜課題において、3chで女性の方が有意に高い値を示した(p<0.01)。
【考察】
今回の結果において、野菜課題よりも動物課題の方が有意に高い値を示したことについて、動物という概念の特性上、比較的イメージしやすかったのではないかと推察される。また、野菜課題は性別によってOxy-Hb変化量に差がみられたことから生活習慣や生活歴の違いが反映するものと考える。このことも動物課題が有意に高い値を示した一つの要因として捉えることができる。意味カテゴリー課題を行う場合、動物の語想起を用いた方がイメージしやすく、また性別の影響は受けずに計測できることが示唆された。語産生数について、太田らは若齢群で動物は19語、野菜は16語が目安であると述べている。今回の計測結果においても近似値になったことから今後の計測の目安になるものと考える。現在、認知症は大変身近な問題となってきているが、周辺の適切な理解や対処法はまだ十分とはいえない状況である。早期診断や症状の変化を即座に捉えることが認知症へのよりよいアプローチに繋がっていくと考える。今後、高齢者を含めたデータを蓄積し、診断のツールのひとつとして確立していきたいと考える。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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