抄録
【目的】
昨年、我々は腰痛症例で持続する疼痛によって求心性入力が歪曲され、非効率的な運動制御を呈する症例の鑑別方法として、従来の理学検査に荷重伝達機能テストを加えることの有用性と、初期治療として過緊張筋のリリースと併用して深層筋に対する特異的安定化運動と、疼痛が生じないよう注意を払いながら深層筋と表層筋を共同収縮させる積極的な動的安定化運動の有効性を臨床所見と動作解析(床反力と三次元動作解析)からその有効性を報告した。今回は骨盤帯正中化後に腰部骨盤帯に対する疼痛誘発テストとジョイントプレイを施行し、その結果に準じた治療体系の有効性を無作為に検討したので報告する。
【方法】
対象は著明な神経学的脱落所見を認めず3カ月以上の罹病期間を有する慢性腰痛症例122例である。対象の内訳は罹病期間が平均13.2±6.8週間、年齢が平均36.3歳、性別が男性75例、女性47例である。開始時、全例に対してZEBRIS社製床反力計PDMを用いて両脚立位と片脚立位時の床反力中心(Center of Pressure:以下COP)を測定し、支持面積と総軌跡長を測定した。理学所見は疼痛(visual analogue scale:以下VAS)と体幹前屈角度(finger floor distance:以下FFD)とした。対象は全例とも当院のフローチャートに準じ骨盤帯正中化獲得後、運動パターンをランダムに施行した群(以下ランダム群)と、疼痛誘発テストの結果に準じ、共同収縮パターン選択した群(以下選択群)に無作為に分類した。今回選択したパターンは脊柱の不安定性に対しては背臥位での広背筋と大殿筋の共同収縮、骨盤帯の不安定性に対しては股関節内転筋群と反対側外腹斜筋の共同収縮とした。治療内容は7秒間、7回施行して、両群とも運動直後、開始時と同様に動作解析と重心動揺および臨床所見を測定し、群間で比較を行った。
【説明と同意】
全例に対して当院の倫理規定に基づき、十分な説明を行い、同意を得た。
【結果】
(1)VASは両群とも改善したが、選択群のみ有意差(P<0.01)を認めた。(2)FFDは両群ともに改善傾向であったが選択群のみ有意な(P<0.01)改善を認めた。(3)COPの支持面積は両側立位で両群とも有意(P<0.01)な改善を認めた。患側での片脚立位は選択群のみ有意(P<0.01)な改善を認めた。健側での片脚立位では両群とも変化は認められなかった。(4)COPの総軌跡長は患側立位のみ有意(P<0.01)な改善を認め、両脚立位と健側立位では有意差は認めなかった。
【考察】
安定化運動に関する無作為臨床試行論文をレビューしてみると、骨盤帯痛と慢性腰痛の再発予防に対しては安定化運動が効果的であるが、急性腰痛の機能障害と疼痛の緩和に対する効果は認められていない。今回用いたMNRはレッドコードを用いることで、疼痛に配慮しながら微細な免荷を行いながら漸増的運動療法が可能な方法である。結果、急性期において治療直後より理学検査およびCOPの総軌跡長と支持面積が治療前後に即座に有意な改善を認めたことから、MNRの急性期症例に対して、理学検査に相応して姿勢の安定性に関しても有効性が示唆されたものと考える。