【はじめに】
当事業所では、活動を行う際の媒介に施設通貨を活用している。今回、認知症対応型通所介護で施設通貨(以後 通貨と略)を利用した、作業療法(以後 OT)アプローチを行った。認知症の方で、通貨を自発的に活用できるようになったケースを報告する。また、報告に当たっては、事前に本人ならびに家族への同意を得た。
【対象】
Aさん。80歳代後半。女性。アルツハイマー型認知症。寝たきり自立度A2。認知症の自立度IV。FIM:105点。一般性セルフエフィカシー度:5点。週3回認知症対応型通所介護を利用している。
【経過】
Aさんに困っていることを伺うと「腰が痛い。」と訴えられた。そこで、通貨の説明として、通貨を利用することで腰の電気治療が可能であること。通貨を貯めるためには、バイタル(血圧・体温・脈拍)の記入や家事活動の参加等を行うと良いという事を伝えた。利用されて間もなくは、スタッフの声掛けによる家事活動の参加がみられた。この頃、通貨を貰える活動・通貨を払う活動等の説明を毎回行ない通貨の出し入れをスタッフが行った。3か月経過する頃には、家事活動の参加として自主的に湯呑を洗う姿が見られるようになった。また、自宅からエプロンを持って来られ、おやつ作りを行う等積極的な場面もみられるようになった。通貨に対する認識も高まり自分で通貨の出し入れを行うようになった。6か月経過する頃には、施設で使用しているものとは別に通貨を入れる袋を自宅から持って来られ、通貨を数える姿が見られるようになった。
【結果】
寝たきり自立度A2→A2。
認知症の自立度IV→IIb。
FIM105点→107点。
一般性セルフエフィカシー尺度:5点→6点
今回MMSEを3カ月毎に行ない、通貨を数える時に必要な計算に着目した。初回利用時、MMSE15点(計算0点)。利用3ヶ月時、MMSE22点(計算1点)。利用6ヶ月時、MMSE24点(計算5点)。となった。
【考察】
対象者の行動変容の移り変わりをマズローの欲求階層説を用いて考えると、前項で説明した、経過の初期では、自発的な発言や行動は見られず、生理的欲求・安全欲求は満たされていたと考えられる。中期では、他利用者と会話や家事活動を一緒に行う姿が見られるようになり、社会的欲求が満たされている。また、自宅からエプロンを持参し、積極的におやつ作りに参加している姿が見られるようになったことから、自我(自尊)の欲求が満たされていたと考えられる。今回は、上手く通貨を利用できていた対象者であったが、認知症の進行を止めることは難しい。今後、その人その人にあった関わり、OTアプローチをどのように行なっていくかが課題となると考えた。