抄録
【はじめに】
今回、身体・環境要因により在宅復帰が難しいと思われた症例に対し、退院前から訪問リハビリとして支援する機会を得た。互いに異なる事業所であったがケアマネージャー、MSW、PT、福祉用具専門相談員など、多職種間で連携を深め検討を重ねた結果、在宅復帰とその後の訪問リハ提供に進める事ができた為、下記に報告する。本報告にあたり、本人・家族の承諾と当院倫理委員会より承認を受けている。
【症例】
60代男性、慢性硬膜下血腫術後(要介護4)。既往に脳梗塞、脳挫傷性水頭症などがある。公営団地の4階に妻・娘と同居。団地の為、エレベーターがなく、住宅改修は困難であり、車椅子を利用される為に階段昇降やトイレ・入浴の問題点があった。全てのADLに中等度以上の介助が必要であり、移乗介助時に介助者と共に転倒する危険性が高かった。また、注意力・危険認知の低下の為、常に監視が必要であった。
【経過】
11月:在宅復帰が難しい症例の訪問リハビリの依頼が入る。12月9日:利用者宅訪問・担当者会議<家屋調査・問題となる生活場面の抽出・階段昇降>住環境調査から問題点はトイレ・入浴動作、階段昇降と思われた。その為、退院後を想定し、本人同行の下、階段昇降機を試用し、実際の生活動作の確認を行う事とした。12月27日:利用者宅訪問<階段昇降機試用・生活場面動作の確認・課題>昇降機の実用性・安全性の検討を行う。実際の生活場面の動作は移乗動作で課題が残った為、病棟で自宅を想定した訓練と動作見直しを行い、経過を見ることになった。1月初旬:連携<福祉用具選定・住宅改修>病院のPTと話し合い、動作・介助能力からトイレキャリー、移乗サポート台を使用することにした。同時に居室間の段差解消やホームドクターの依頼などの環境整備も進めていった。また、昇降機講習を行い妻への操作性・危険性の理解を深めた。1月22日:退院前担当者会議。退院後のホームドクター(往診)や住宅改修、福祉用具貸与・購入の準備が固まり、退院に対しての家族の不安も軽減してきた。1月31日:退院、翌日から訪問リハビリ開始となる。
【考察とまとめ】
退院に向け家族・多職種での連携を重ね、症例の身体状況や住環境、具体的な問題点とその解決法などの共有を図り退院に至る事が出来た。転倒の危険性や将来的な通所系サービスの利用必要性などの課題は残っていたが、家族にもその課題や目標の理解が得られ、訪問リハビリを開始する上で向上心や意欲を引き出す大きな効果になったと考える。退院前から訪問スタッフが支援に加わることは少ないが、多職種との連携を深める事で、復帰困難事例の復帰を果たすという有意義な経験をする事が出来、全職種で在宅支援を行っていく重要性を改めて感じる事が出来た。