抄録
【はじめに】
線維筋痛症(以下、FMS)は、全身の激しい痛みにより臥床傾向となり、日常生活に著しく困難をきたす疾患とされ、痛みに対処する生活と精神のコントロールが重要とされている.今回、激しい疼痛を訴える介入初期は活動の動機づけに難渋したが、各種刺激により社会参加が可能となった症例を通して、応用行動分析学の視点で訪問作業療法の有用性を検討・報告する。尚、本人には同意を得ている.
【症例】
72歳女性.H19.FMS診断H21.11 腰痛増強により入院.「入院が長いとパニックになる」と病棟生活にストレスを感じ、要介護状態で独居生活に復帰.FIM88点.FMSステージIV.要介護3.
【経過・結果】
<生活混乱期12/4~1/26>ベット上生活中心で、主訴は「この痛みをどうにかしてほしい」と話し、寝返りやギャッジアップで全身の激痛を訴え疲労が強い.嘔気、食欲不振が続き経腸栄養剤で栄養補給.排泄はオムツ使用.他県に住む孫の話で表情が緩み落ち着きがでてくるため、日々の改善状況を携帯ムービーにて送信することを提案し活動を促す.コルセット作製にて起居動作訓練を開始.松葉杖歩行にてトイレでの排泄に徐々に間に合うようになり、気分転換に外出を促す.階段昇降訓練を重ね、自宅横の公園までの散歩にて「2年ぶりの公園!」と感涙.<生活安定期1/28~4/6>疼痛の訴え少なくなる.自動車運転を希望したため、乗降訓練および駐車場内運転を実施.両手前腕部および腰痛あるが運転できることが嬉しくて気にならないと話す.更に「おいしいコーヒーが飲みたい」との訴えがあり、買い物訓練を実施.連続歩行で下肢痺れ訴えあるが、休憩を入れながら食べたい食材も一緒に選んでいく.洗濯物干し訓練やトイレ掃除などを実施すると、次回の訪問時に「何とか一人でできた」と嬉しそうに報告がある.<生活拡大期4/13~5/25>簡単な調理をするようになり食事量が増え、役所での手続き等での外出がみられ始める.家具屋へ同行しベットを購入.搬入後の動作確認を行ない訪問リハ終了となる.FIM109点.FMSステージI.要支援2.
【考察】
応用行動分析学では、先行刺激を手がかりとして行動が引き起こされ、適切な後続刺激によって行動が強化するとされている.今回、運動療法は自動他動ともに疼痛の訴え強く、肉体的および精神的ストレスを助長させるものとなっていたため、心理的援助に重点をおき、生活障害に意識を向けてもらうことを心がけた.その結果、疼痛はあるものの離床が可能となり、各種刺激の満足感および達成感が痛み刺激からの開放に繋がり、行動の強化に繋がったと思われる.生活を共に考え心理状態を踏まえながら各種活動を行なう訪問作業療法は、FMS疾患に有効な生活支援サービスであると考える.
【まとめ】
<先行刺激>今日の「ばあば」.コルセット作製.外出誘導<行動>排泄自立.公園散歩.自動車運転.買い物<後続刺激>孫からの電話.1日のフィードバック.食べたい物を購入.