抄録
【はじめに】
肩腱板損傷の急性期は患部の安静や物理療法、ADL指導など消炎鎮痛、二次障害予防が行なわれる。一方、発症要因が持続的姿勢や反復運動の場合、その要因の修正が症状や機能の改善、再発予防に必要と思われる。今回、自然発症による腱板損傷受傷後安静を保てず疼痛が持続し、患部外からの介入で症状が改善した症例を経験したため、急性期の介入方法について考察し報告する。本報告は本人に説明し同意を得ている。
【症例紹介】
78歳、男性。診断名:左肩腱板損傷。現病歴:誘因無く左肩痛出現。2日後より左肩前面に皮下血腫出現。当院受診し、超音波診断画像にて棘上筋に輝度変化あり上記診断。翌日理学療法開始。職業:竹細工職人(64年間)。胡坐で右手にナイフを持ち、左上肢屈伸で竹を切る。発症前:左肩動作時痛、挙上困難感あり。
【初期評価】
主訴:仕事中左腕を動かすと肩がズキッと痛む(VAS7)。姿勢:座位にて体幹軽度右側屈、骨盤後傾、胸腰椎後彎。左肩甲骨挙上、上方回旋位。背臥位や立位にて股関節外旋位。仕事動作:体幹右側屈を伴う左肩甲骨挙上位で上肢を粗大屈曲、伸展する。炎症所見:腫脹、発赤あり。熱感なし。疼痛:安静時なし。左肩屈曲・伸展時、伸展外旋の自動運動で大結節周囲にあり。時折夜間痛あり。ROM:著明な制限ないが他動運動への防御反応著明。MMT:疼痛あり概ね2~3。左棘上筋、棘下筋萎縮あり。特殊検査:painful arc+、drop arm sign-。
【理学療法経過】
微弱電流刺激療法、肩甲帯リラクセーション、ROM練習、ADL指導実施。2週間行なうも疼痛変化なし。その間も仕事継続。肩甲帯周囲のテーピングにて動作時痛軽減あり、プログラムを股関節外旋、骨盤後傾、胸腰椎後彎、肩甲骨挙上の姿勢異常の調整へ変更。変更後2週で疼痛VAS3となり肩周囲筋再教育目的に荷重位での肩甲骨自動運動、肩内外旋自動運動を追加。
【最終評価】
姿勢:右側屈あるが肩甲骨挙上は減少。仕事動作:肩甲骨の代償軽減。炎症所見:なし。疼痛:仕事中VAS1。夜間痛消失。MMT:概ね4~5。左棘上筋、棘下筋4。特殊検査:painful arc-。
【考察】
Sahrmannの運動病理学的モデルに代表される持続的姿勢や反復運動により生じた損傷は、症状改善のみならずその原因の調整が必要とされる。初期は仕事動作が年齢により弱化した組織への負荷となり受傷し、炎症性の疼痛を生じていると判断し消炎処置を実施した。しかし、本症例は仕事の継続が治癒過程を妨げる事が理解できても休めない状況であり、姿勢調整をきっかけに疼痛が軽減したことからも機械的要素が疼痛を持続させていたと思われ、介入方法を変更し改善を得た。肩腱板損傷における介入は、急性期から損傷により生じた炎症性の疼痛と機械的要素による疼痛を鑑別し、両側面より対応することが必要と思われた。