九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 135
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人工膝関節全置換術後,歩行訓練開始時期が膝関節屈曲可動域に与える影響
*東島 直生松村 陽介大崎 祐史田中 玲森永 穣地本岡 勉井手 衆哉園畑 素樹馬渡 正明
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抄録
【目的】
 近年,人工膝関節全置換術(以下TKA)後,早期退院を目的として多くの施設でクリティカルパスが導入され理学療法が実施されている.それにより,術後早期からの歩行訓練が開始され早期杖歩行獲得や疼痛改善に効果的であるとの報告がみられる.しかし,膝関節屈曲角度との関係を検討した報告はみられない.本研究の目的は,術後の歩行訓練開始時期が,膝関節屈曲可動域にどのような影響を与えるか検討することである.
【方法】
 対象は,2009年4月から2010年9月までに当院にて初回TKAを施行した患者のうち,術後クリティカルパスに沿って理学療法を実施し入院中にT杖歩行訓練まで行えた患者37例.そのうち,訓練終了時の可動域が110度未満の11例(男性2名,女性9名,平均年齢72.8±6.2歳,BMI25.1±5.5kg/m2,変形性膝関節症9名,関節リウマチ3名)をA群,110度以上の26例(男性6名,女性20名,平均年齢71.3±8.0歳,BMI24.4±3.3kg/m2,変形性膝関節症8名,関節リウマチ18名)をB群とした.なお,今回の対象から両側例,他の整形外科的手術,中枢神経疾患など理学療法治療,評価に支障をきたす既往,合併症があるものは除外した.比較項目は,両群間における平行棒もしくは歩行器歩行訓練開始までの期間,両杖歩行訓練開始までの期間,T字杖歩行開始までの期間とした.統計学的解析にはSPSS12.0JforWindowsを使用し,二元配置分散分析と多重比較検定のTukeyの方法を用い,有意水準は危険率5%未満とした.
【説明と同意】
 対象者には,検査実施についての十分な説明を行い,研究参加の同意を得た.
【結果】
 平行棒もしくは歩行器歩行訓練開始までの期間はA群3.4±0.5日,B群3.5±0.7日,また,両杖歩行訓練開始までの期間はA群7.0±2.5日,B群4.8±2.0日となり両群間に有意差は認められなかった.しかし,T杖歩行訓練開始までの期間についてはA群12.2±4.9日,B群6.6±2.9日となりB群の方が有意に短かった(P<0.01).
【考察】
 本研究結果から,B群においてT字杖歩行訓練開始までの日数がA群と比較し有意に短かった.これにより術後早期からのT字杖歩行訓練開始が膝関節屈曲可動域改善に有効であることが示唆された.これは術後早期にT字杖歩行訓練を開始することにより,モチベーション向上,病棟での活動性が増すことにより術後浮腫の改善,筋を含めた軟部組織の柔軟性の改善が促進された結果,膝関節屈曲可動域の改善につながったためではないかと考える.今後は,T字杖歩行訓練開始遅延の原因や早期のT字杖歩行訓練開始が膝関節屈曲可動域以外に与える影響について検討が必要である.
【まとめ】
 術後早期からのT字杖歩行訓練開始が膝関節屈曲可動域改善に有効であることが示唆された.ADLでは,階段昇降,床からの立ち上がり動作などにおいて十分な膝屈曲角度が必要とされている.膝関節屈曲角度がより改善することにより,これら動作の訓練・獲得が可能となり早期退院にも繋がるのではないかと考える.
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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