抄録
【はじめに】
膝関節疾患の評価として,荷重応答時の対応を視覚的に捉え,膝関節に対する力学的ストレスを推測するため片脚立位を臨床指標として用いている.しかし,片脚立位時の膝関節運動を詳細に評価することが困難である.今回,3軸角速度計を用いて健常成人における片脚立位時のバイオメカニクス的特徴を膝関節に限定して検討したので以下に報告する.
【対象と方法】
対象は下肢疾患に既往のない健常成人16名(平均年齢26.0±4.5歳,男性9名,女性7名,測定肢:右下肢).本研究はヘルシンキ宣言の主旨に沿って実施し,当院の倫理委員会の承認を得た上で実施した.計測は,Micro stone社製3軸角速度計 Mobile:MP-G3-01Aを右大腿骨外側中心部(大転子~膝関節裂隙の遠位57%)と右下腿外側中心部(膝関節裂隙~外果の遠位57%)の2ヵ所にそれぞれ装着し,左踵部にフットスイッチを装着した.計測システムは,3軸角速度計,フットスイッチ,信号処理ボックス,Power Lab(AD Instrument/16SP),グラビコーダ(アニマ社製),パーソナルコンピュータを使用し構成した.課題動作である片脚立位の方法はグラビコーダ上にて両上肢を前方に組み,両足幅20cmに開いた立位姿勢を開始肢位とした.検者の合図から片脚立位を開始し,約10秒間(合計平均10.4秒)の右下肢での片脚立位を3回実施した.収集したデータから足圧中心(Center of Pressure;COP)の動き出しから左下肢の床反力が消失(合計平均1.3秒)した瞬間を動作開始から踵離地とみなし,片脚立位データとして採用した.算出したデータは100%正規化を行った後,3回実施の平均化を行い,5データ毎の積分値として算出しグラフ化した.
【結果】
全被験者の平均結果から,片脚立位の荷重応答時の大腿,下腿の回旋角速度は全て内旋方向への運動が起こり,下腿の内旋運動が大腿の内旋運動よりわずかに大きく,先行して起こっていた.また傾斜角速度においては大腿,下腿共に外側傾斜方向のグラフの傾きが一様に見られ,外側傾斜変化量は下腿外側傾斜の方が多かった.経時的には大腿,下腿の外側傾斜が起こった後,下腿内旋運動,大腿内旋運動の順に膝関節運動が起こっていた.
【考察】
健常成人の片脚立位の荷重応答時は大腿,下腿の内旋運動が起こり,下腿の内旋運動がわずかに大きく,先行して起こっていたことから膝関節内旋による靭帯,筋による安定化が図れていたと考えられる.また大腿,下腿の外側傾斜の傾きが一様であった事から下肢機能軸上での荷重対応が行われていたと示唆された.今後は膝関節疾患における荷重連鎖が膝関節にどのような力学的ストレスを及ぼしているのかを比較・検討する必要がある.