抄録
【はじめに】
高齢者は、加齢に伴う身体機能やバランス機能の低下により、転倒の危険性が高くなる。その中でも、デイケア利用の対象となる高齢者は、日常生活動作等、動的な活動によりその危険性はさらに増加する。これに対し当事業所では、各利用者の身体機能及びバランス機能の把握と、個別の転倒予防プログラムを立案する目的で、3ヶ月に1度Functional Balance Scale(以下FBS)を用いて評価を行っている。そこで今回、FBSと転倒の関係性を検証し、FBSの有用性を検討したので報告する。
【対象】
当事業所の利用者のうち、独立歩行が可能で、認知症を有さない42名(男性8名女性34名、平均年齢81.9±5.5歳)を対象とし、その内過去1年間に1度以上転倒した者を転倒群、転倒していない者を非転倒群とした。尚、利用者に十分な説明と同意を得た上行った。
【方法】
まずFBSの合計点を2群間で比較し転倒とFBSの相関を求めた。さらに、FBSの全14項目を2群間で比較し、各項目ごとに有意差を求めた。統計処理には、対応の無いt検定を用い有意水準は5%未満とした。
【結果】
FBSの合計点は,平均で転倒群42.1点に対し、非転倒群は46.8点と2群間で有意差が認められた。また、各項目の点数では、閉脚立位保持テストと上肢前方到達テストの2項目で転倒群が有意に低値を示した。
【考察】
今回の結果より、転倒群、非転倒群の2群間においてFBSの合計点に有意差がみられたことから、島田等の「高齢者のバランス機能と転倒は負の相関関係が認められ、その効果判定にはFBSが有効である」とした報告を支持する結果となった。また、当事業所の利用者から過去1年以内に転倒した際の状況を聴取した結果、最も多かった移動中の転倒に続いて、洗濯物を干す、遠くの物を取る際の転倒が多いことが判明した。このことは類似する動作である、上肢前方到達テストで2群間に有意差が得られたことから、利用者の日常生活場面での転倒リスクの予測とそれに基づく個別の転倒予防プログラムの立案に有用と考えた。
【まとめ】
バランス機能には、主に静的因子と動的因子があるが、島田らは「静的バランス運動を行った群では静的バランス機能が向上し、動的な運動を行った群では動的なバランス機能の改善がみられた」と報告している。つまり高齢者の転倒リスクを軽減するためには、総合的にバランス機能を改善することが重要であり、そのためにも定期的に身体機能及びバランス機能を評価し把握した上で、個別の転倒予防プログラムを実施していくことが転倒を予防する上で重要と考える。