抄録
【はじめに】
これまで、当通所リハ利用者を対象にレッドコードを使用したスリングバランスエクササイズ(以下、SBE)を実施し、その効果を検証、報告してきた。本研究ではSBEを1年間継続し実施することで、バランス能力にどのような影響を及ぼすのか、その効果を検証した。
【SBE内容】
1回あたり約25分間、5~6名のグループで実施。内容は、前後左右方向への重心移動、ステップ、片脚立位、屈伸運動、足関節の底背屈運動を含む約15パターンの動作。また、エクササイズ前に約10パターンの椅子座位にて可能なストレッチを約5分間、合計約30分間実施。また、利用者全員へSBEの紹介を行い、希望者のみ参加している。
【対象】
障害老人の日常生活自立度においてJ・Aランクであり、平成18年8月~22年12月の期間に1年以上継続して通所リハを利用し、個別リハビリを実施している方を対象とした。このうち、週1回以上継続してSBEへ参加した20名(男性6名、女14名、平均年齢:80±12歳)を実施群、SBEに参加されなかった20名を非実施群(男性10名、女性10名、平均年齢:78±10歳)とした。
【方法】
実施群・非実施群とも、通所リハ開始時と1年後の評価結果を比較。評価には、10m最大歩行速度(以下、10m歩行)およびTimed Up & Go Test(以下、TUG)を使用した。統計にはt検定を用い、有意水準を5%とした。
【結果】
実施群において、10m歩行は有意差を認めなかったが、平均は15.3秒から13.4秒(改善13名、悪化6名)となった。TUGでは有意差を認め、平均は18.2秒から15.9秒(改善15名、悪化5名)となった。
非実施群では、10m歩行・TUGとも有意差を認めなかった。10m歩行では、平均15.6秒から16.3秒(改善9名、悪化11名)となった。TUGでは、平均18.9秒から19.8秒(改善10名、悪化10名)となった。
【考察】
非実施群は、10m歩行・TUGともに平均値の悪化がみられた。このことから比較的自立度が高く、継続して個別リハビリを実施した高齢者でも1年間、身体機能を維持していくことの難しさが考察できる。
一方、実施群では10m歩行の有意差は認めなかったものの、平均値は短縮しており改善傾向であった。また、TUGの結果にのみ有意差が認められた理由としては、10m歩行は歩行速度を重視した評価であるのに対し、TUGは起立、歩行、方向転換、着座といた複合動作から成り立っており、より高いバランス能力が求められるためと考える。
これらから、当通所で実施しているSBEは長期間実施することにより、バランス能力の改善および低下予防に期待がもてるプログラムであると考える。