九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 145
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長期臥床症例に対する抗重力姿勢の重要性
~血圧変化に着目して~
*松崎 秀隆武田 正勝渡邉 観治大川 瑞枝吉村 美香荒木 真由美
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抄録
【はじめに】
 長期臥床症例の関節拘縮予防に対する関節可動域練習(以下、ROM)の重要性については既存の知である。しかしROM実施後、各姿勢での血圧変化に関する報告はあまり散見されない。そこで今回、関節拘縮などの理由で座位が取れず長期臥床中の群(以下、臥床群)と、食事摂取時のみ車椅子座位姿勢を取る群(以下、座位群)に分け、ROMおよび血圧測定を実施し比較検討したところ、若干の知見を得たので報告する。
【対象】
 当院入院中の長期臥床症例14名(男性7名、女性7名、平均年齢78.7±5.9歳)。両群の属性比較にて有意差は認めなかった。また、対象症例もしくは家族に対しては、倫理面への配慮として任意性と同意撤回の自由について口頭および文章にて説明し承諾を得て実施した。
【方法】
 全症例において、同一検査者が同様の方法で午前中を基本に四肢関節を中心にROMを実施した。ROMについては、愛護的に全可動域にわたり、ゆっくり痛みのない範囲内で各関節20×2回実施(15分程度)した。血圧測定には、オムロン社製自動電子血圧計を用いROM実施直前および実施直後にベッド上背臥位にて測定した。両群間の比較にはSPSS 12.0 J for Windowsを用いて検討した。
【結果】
 ROM実施後、座位群の血圧は臥床群と比較し、収縮期血圧が平均で11.6mmHg(p=0.002)、拡張期血圧で平均4.3mmHg(p=0.018)と、ともに有意な低下を認めた。
【考察】
 高齢になれば収縮期血圧は高くなり、拡張期血圧は低下する傾向にあるとの先行研究がある。これは、血管のコンプライアンスの低下により末梢血管抵抗が増加して、血流が阻害されるためである。また、高齢者は多関節に関節可動域制限を認めるため、筋肉や皮膚、皮下組織など関節周囲に存在する軟部組織の拘縮や関節変形の影響にもアプローチする必要がある。今回、ROM実施後に座位群は臥床群と比較し、血圧が有意に低下することが確認された。これには姿勢筋緊張の影響が関与していると考えている。長期臥床症例では十分な筋のリラクセーションが得られていないことが多い。そのため、両群に対してROMを実施し、筋肉を含む軟部組織の伸張性および弾力性の維持に努めた。また、日中の抗重力姿勢にも着目し、座位群においては食事摂取時に座位を取らせることで、脊髄前角細胞の興奮性(H波振幅)を低下させ、伸張反射の利得を抑えた。その結果、臥床群と比較してリラクセーション効果が促通され、血圧の低下に寄与したと考えている。つまり、長期臥床症例に対しても座位など抗重力姿勢の促しと、ROMの併用が必要不可欠なアプローチ方法の一つであることを血圧変化から確認することができた。学会では、より詳細な分析を加えて報告させていただく。
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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