抄録
【はじめに】
近年、ロボット工学の進歩はめざましく、医療現場や福祉介護分野で実用化が期待されている。今回、ロボットスーツHybrid Assistive Limb福祉用(以下HAL)を3症例に対して装着して理学療法を実施した。そこで装着前後での運動機能に変化が見られたため、考察を加えて報告する。
【HALとは】
HALは、人が筋を動かそうとした時に皮膚表面に貼り付けたセンサーで生体電位信号を読み取り、装着者がどのような動作をしようとしているのかを判断し、その動作をサポートするものである。
【対象】
以下の3症例に対して行った。1)脳梗塞右片麻痺50歳代男性 T杖と金属支柱付き短下肢装具使用して歩行は可能である。2)二分脊椎症による両下肢麻痺20歳代女性 日常生活は車いすを使用しているが、屋内では両長下肢装具を使用して歩行は可能である。3)脊髄小脳変性症による両下肢麻痺30歳代男性日常生活は車いすを使用しているが、つたい歩きは可能である。なお、倫理的な配慮として対象者には研究の趣旨および説明を十分に行い同意を得た上で実施した。
【方法】
3症例ともHALを装着して、立ち上がり動作や左右への重心移動練習や歩行訓練などを20分程度実施した。そして装着前後に1)10m歩行時間2)ファンクショナルリーチテスト(以下FR)」3)3分間歩行距離4)timed up&go test(以下TUG-T)を計測した。装着前後での計測値を対応のある2標本の母平均値の差の検定を用いて比較した。
【結果】
装着前後の10m歩行時間・FR・3分間歩行距離において有意な差(P<0.01)を認めた。また、TUG-Tにおいても有意な差(P<0.05)を認めた。
【考察】
今回、装着評価治療を行った症例は、いずれも下肢の動きに問題があり、内在的フィードバックも障害されている。今回、HALを使用して運動を実施することで、本人の運動実施のタイミングが視覚的にも体性感覚的にもフィードバックされ、これによって内部モデルの修正が行われ、運動学習が進み、筋出力や筋の協調したコントロールが可能となり、歩行やバランス能力の向上につながったと考える。
【おわりに】
HALを装着前後で運動機能に変化が認められた。今後も、理学療法での可能性について研究を続ける。