抄録
【目的】
近年、変形性膝関節症(以下、膝OA)に対するインソールの有用性の報告は多くみられ、オーダーメイドで作成するインソールも多岐にわたってきている。Michaudら(2006)は機能的なインソールを作るにはアーチ形状や前足部と後足部の相対的角度関係などの形態を正確に獲得する必要があり、それには一貫性があることが重要であると述べている。しかし、採型方法が多彩な一方で、各採型方法による効果について比較し、検討を行った報告は少ない。そこで、トリシャムとデジタイザーという2つの異なる採型方法を用いたインソールの効果について検証を行ったので報告する。
【対象と方法】
対象は、膝OAを有する患者4名(女性4名)で独歩可能な者。平均年齢は76±25歳、平均FTAは右側が182°、左側が183°であった。条件として膝OA grade(K&L分類)にてgrade I、grade IIを対象とした。除外基準は中枢疾患や骨折を有するものとした。本研究で用いた採型方法は以下の2つの方法とした。1)トリシャムでの採型方法(A群) 2)デジタイザー機器(ORTHEMA社製、Insole CAD/CAM SYSTEM)での採型方法(B群)
方法は、インソール無しとA群、B群の3つの条件に分け、10 m歩行速度(m/秒)と歩数、Numeric rating scale(以下、NRS)、床反力計(Zebris社製、WinFDM-system)および加速度計(フルサワラボ社製、BioTelemeter)を用いて測定した。床反力計の各項目はStep length(歩幅、cm)、Step time(歩幅率、sec)、Stance phase(立脚期、%)、Swing phase(遊脚期、%)、Single support(単脚支持期、%)、Pre swing (前遊脚期、%)、Stride length (重複歩、cm)、Stride time (重複距離、sec)、Cadence(歩行率、steps/min)、Velocity (秒速、cm/sec)、Anterior/posterior variability (COPの交差ポイントの前後方向への揺らぎ評価、mm)、Lateral variability(COPの交差ポイントの左右方向への揺らぎ評価、mm)について測定した。加速度計は立脚中期での両側膝の外方最大加速度(m/s2)を解析した。
【結果】
10m歩行速度、歩数はA群で最も改善を認めた。NRSについてはA、B群の両群で疼痛の軽減を認めたが、両群での差は認めなかった。床反力計はA群がStep length、Step time、Stance phase、Swing phase、Single support、Pre swing 、Cadence、Lateral variabilityが基準値に最も近く、B群ではStride length、Stride time、Cadence、Velocityが基準値に最も近かった。加速度計では左右ともにA群が最も立脚中期での膝の外方加速度の減少が認められた。
【考察】
3つの条件において、10m歩行速度と歩数、NRS、床反力計を用いた歩行周期解析、加速度計を用いた立脚中期での両側膝の外方最大加速度の比較、検討を行った。本研究では床反力計と加速度計でA群、B群ともに改善を認めたが、特にA群において多数の項目で改善が認められた。このことが10m歩行速度、歩数、NRSの改善につながったと考えられた。井原ら(2005)は内側型膝OAに対し、早期にインソールを製作することで側方動揺の減少が図れると述べている。この報告から推察すると、トリシャム、デジタイザーともに本研究で用いた測定に与える影響は大きく、また前述の機能的なインソールを作成するにあたっても、この2つの異なる採型方法の有効性は高いと考えられた。今後も、本研究の結果をもとに症例数を蓄積し、更に検討していきたい。