抄録
【はじめに】
関節リウマチの手関節部における手指伸筋皮下断裂手術は、腱の摩耗や変性のため端々縫合は不能で、腱移植または腱移行が選択される。石黒らは、断裂腱の末梢断端を隣接指の伸筋腱に端側縫合(interlacing suture)により腱移行した後、患指を隣接指へoverlapさせた位置でテーピングし腱縫合部の減張位を保持しながら、術直後から手指自動運動を行う減張位早期運動療法を提唱している。当院でも石黒法を施行することもあるが、長時間のテーピングによる掻痒感などの訴えがあり、テーピングの代用として熱可塑性樹脂を用いたoverlap代用splintを考案した。今回、一定の使用経験ができたので考察を含め紹介、報告する。なお本研究は対象者に説明と同意を得ている。
【スプリント紹介】
材料:オルフィットソフトNS1.6mm(パシフィックサプライ株式会社)
製作:スプリント材(3×15cm)を湯に入れ軟化し、強度を増す目的で短い幅の方向に二つ折りし、中指基節骨部掌側面、環指基節骨部背側面、小指基節骨掌側面に接し、かつ環指MP関節よりも小指MP関節が伸展位となるようにモデリングする。各指間が厚くなりすぎないように形を整え、余分な部分を切り取りエッジ処理する。
仕組み:環指の基節骨背側部を支点として中指と小指がつり合っている形状となっており、手指屈曲時は環指MP関節より小指MP関節が伸展位に保持されることで腱縫合部が減張位に保たれ、手指伸展時は環指MP関節より小指MP関節が伸展位に保持されていることにより環指の伸筋腱が手指伸展の力源となり腱縫合部が減張位に保たれる。
装着:日中装着し、夜間は手指伸展位保持のnight splintと組み合わせて使用。期間は6週を目安に主治医と相談して決定している。
適応:小指伸筋腱断裂のみが適応。その他の多指伸筋腱断裂の場合は、固有示指伸筋(EIP)にて示指のみを伸展すると尺側指を隣接指に対しMP関節伸展位に保てないため適応とならない。
【症例】
70歳代。女性。RA罹病歴7年。Larsen grade3。
術中所見:総指伸筋(EDC)小指、小指伸筋(EDQ)断裂。
手術:滑膜切除。Sauve-Kapandji法。EDC(小指)をEDC(環指)へ、EDQをその縫合部へinterlacing suture。
【結果】
《術前》MP関節(伸展/屈曲)環指0/80小指-40/95。握力3.7kg。 DASH〔能力障害〕63.3〔仕事〕62.5。HAQ -DI0.5。主訴:手が使いづらい。
《術後3ヶ月》MP関節(伸展/屈曲)環指-5/70小指-10/65。握力7.5kg。 DASH〔能力障害〕21.0〔仕事〕50.0。HAQ -DI0.375。術後満足度: 充分満足(手が使いやすくなった。家事がしやすくなった。箸が使いやすくなった。コップをつかみやすくなった。顔が洗いやすくなった。)スプリント装着による痒感なし。
【考察・まとめ】
小指伸筋腱断裂のみの使用や自己管理能力(スプリントを外して自動運動しない、スプリントを装着していても小指MP関節のみの自動伸展をしない等)が必要であるなど適応が限定されるが、皮膚障害も少なく衛生的で装脱着がしやすい等の利点もあり有用と思われた。