抄録
【はじめに】
脳卒中発症後、麻痺側肩関節に亜脱臼を認めた場合、三角巾を使用する事が多いが三角巾は上肢屈曲位固定である為、前傾姿勢となり、歩行時に上肢も振る事が出来ず、歩行能力低下の可能性がある。そこで上述のデメリットを改善した肩関節亜脱臼に対する装具を作製、検証したので報告する。
【上肢装具】
本装具は柔軟な素材のネオプレン3mmを使用し、上腕カフ、肩部、体幹ベルトからなる。上腕カフ下端5cmの内側に滑り止めゴムを付け、外側に縦方向に切れ込みを入れ、その切れ込みの上半分に伸縮オペロン、下半分にベルクロを使用した。肩部は立体裁断にし、中央部に伸縮オペロンを使用し、肩鎖関節部と腋窩を結ぶようネオプレンで円状に囲った(以下、リング構造)。体幹ベルトはリング構造前上方部と連結している。この構造により体幹ベルトを引くとリング構造部が後方回転し、肩甲帯を後上方、上腕を上方へ引き上げる力が発生する。その結果、亜脱臼を整復し、歩行時に上肢が振れ、胸を張る事が出来る。本装具はRing Shoulder Brace(以下、RSB)と称する。
【対象および方法】
症例は60代男性で平成22年6月発症の脳梗塞にて右片麻痺を呈している。Br.st II-II-VIでCRPS TYPE1による肩関節痛の訴えが強い。歩行は補装具使用せず自立している。
RSBの効果検証する為、1:装具未装着2:三角巾3:RSBの条件で10m歩行(秒、歩数)と坐位での肩関節X線写真上にて肩峰骨頭間距離(以下、AHI)を計測し比較した。また、1、2、3の条件で使用感の良さ、肩関節痛の軽減率、歩行の容易さをアンケートにて順位付けしてもらった。なお、本症例には今回の検証に関する説明を行い同意を得た。
【結果】
10m歩行は1:6.99秒(17歩)、2:7.57秒(18歩)、3:6.78秒(16歩)だった。AHIは1:24.85mm、2:18.55mm、3:16.8mmだった。アンケートは全ての項目で3、2、1の順に順位付けされた。
【考察】
AHIの結果よりRSBは三角巾以上の亜脱臼整復力を得た。これはRSBの構造が効果的に作用した結果だと考えられる。
歩行に関しては、坂光らは胸を張った姿勢での歩行は歩行速度が向上すると報告しており、安藤らや田中らは歩行時に上肢を振ることで歩幅が広がると報告している。RSBを使用すると胸が張れ、歩行時に上肢を振れた為、本症例にも上述した事が起き、10m歩行(秒、歩数)が改善したと考えられる。また、RSBは簡易的な構造であり柔軟な素材である為、本症例に関しては自己装着可能となり、使用感も良好であった。今回は1症例報告であるが上記した結果より、RSBは使用感が良く自己装着可能で肩関節亜脱臼を整復し、歩行能力が改善する装具である事が示唆された。今後は症例数を増やしRSBの更なる検証を行なっていく。