九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 222
会議情報
多発性硬化症患者に対する意志伝達の確立にむけて
~QOL向上の為にPTとして何が出来るか~
*矢野 妙子東 幹雄今村 珠美原 理津子松田 圭太川口 智美矢原 彰一加藤 裕幸
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キーワード: 意志伝達, QOL, 多発性硬化症
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抄録
【はじめに】
 30代前半に多発性硬化症と診断され,視神経症状から徐々に進行し,翌年には四肢麻痺を呈された40代の症例を担当した.ベッド上臥床生活を余儀なくされている本症例の唯一の楽しみは,瞬きで行う最小限の会話とラジオを聴くことであったが,1つの単語を伝えるだけでも多大な時間を要していた.
 そこで,意思伝達装置(伝の心)を導入し,約2ヶ月の集中したトレーニングの結果,操作を完全に体得し,格段なるQOL向上につながった為,ここに報告する.
【症例紹介】
 40代女性.30代の時に多発性硬化症と診断され同年に気管切開,療養継続目的にて当院入院.身体機能としては,完全四肢麻痺であり唯一随意性が残存しているのは表情筋群・頚部筋群のみである.理解力良好であるも全盲・気管切開の為,介助者の50音の音読に瞬きで答え文字を拾う会話が唯一のコミュニケーション方法であった.
【方法・経過】
 『もっと短時間でうまく自分の気持ちを伝えたい』との要望解決を目標に家族や関係スタッフと検討した結果,障害者自立支援法を利用し意思伝達装置(伝の心)を導入した.動作分析・機材調整を繰り返し行うことと,操作練習を併用して行うことで目標を達成することが出来た.  第一段階では,パソコンを操作するスイッチの選定から開始.眉間や瞬きの皺に反応するピエゾセンサ,頚部回旋や顎関節運動でスイッチを押すタッチスイッチ等様々なタイプを試用し,反応の良さ・正確性・耐久性などを繰り返し評価,残存機能を活用して持続的に使用可能な顎関節運動によるタッチスイッチを選択した.次にスイッチの位置や角度を調整し,本人のスイッチ操作ができる位置設定を徹底,操作性の向上を図った.
 次の段階では操作獲得に向け文字入力の練習を行った.全盲の本症例にとって操作の手がかりとなるのは音声のみであり,操作画面の一つ一つを全て記憶する必要があった.画面イメージのフィードバックを繰り返し,ひらがな・カタカナ・漢字・文章の順に難易度を上げながら進めた.練習開始後一ヶ月の時点で30字程度の文章を3分以内で作成可能となり,パソコンにて会話が出来るまで確立した.定型句などの操作練習を追加し,最終段階では日記・家族や友人への手紙作成,現在は発症前から聴いているラジオ番組へのメッセージ投稿と趣味活動へ発展してきている.意思伝達の機会増大により自己表現可能となることで,格段なるQOL向上へと繋がった.
【まとめ】
 今回,PTの前に一人の人間として患者に関わることの大切さを知り,患者様の能力に限界をもたらす一要因としてセラピストは重責を担っていると痛感した.今後も,日々責任を持ちながら患者様と関わっていきたい.
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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