抄録
【はじめに】
近年、低頻度経頭蓋磁気刺激(以下低頻度rTMS)と集中的作業療法の併用療法の効果が報告されている。当院でも平成22年7月より発症から1年以上経過した脳卒中後遺症者の上肢麻痺に対して短期入院での低頻度rTMSと作業療法の併用を行っている。今回、当院退院時から約半年間、週2回の外来作業療法では麻痺側上肢機能に改善を認めなかったが、短期入院での低頻度rTMSと作業療法の併用にて改善を認めた一例を経験したため報告する。尚、発表に際し症例には説明の上、書面にて同意を得ている。
【事例紹介】
30代男性、脳卒中による左片麻痺。Brunnstrom stage上肢III手指III。感覚障害は重度鈍麻。日常生活動作は自立。Mini-Mental Stateは30点で高次脳機能障害は認めない。物品を麻痺側上肢で掴み移動できることを希望していた。発症から1年が経過、当院回復期リハビリテーション病棟退院後は外来作業療法および理学療法、週2回各40分でフォロー中であった。
【方法】
入院期間は3週。低頻度rTMSと作業療法の併用を、土日を除いた2週間、計10日間行いその前後は評価とした。1日1回の低頻度rTMSの刺激は医師が左大脳運動野の手指運動中枢に、運動閾値の60%の強度で1ヘルツの刺激を200回行った。その後、個別療法として作業療法士が60分間、麻痺側上肢の介助下での自動運動やリーチ課題、物品を握る課題、放す課題等の物品操作課題を行った。自主訓練は午前と午後に分けて1日4時間、個別療法で行った内容を反復練習した。評価は当院退院時(発症後半年)、低頻度rTMSと作業療法の併用施行前、施行後の計3回Fugl-Meyer Assessmentの上肢運動項目(以下FMA)、Wolf Motor Function Test(以下WMFT)、Motor Activity Log(以下MAL)を用いて比較した。
【結果】
当院退院時(発症後半年)、施行前、施行後を比較し、FMAが33/66点、33/66点、39/66点。WMFTが1008秒、1022秒、998秒。MAL(AOU合計)が2点、1点、6点。MAL(QOM合計)が2点、1点、6点へと変化した。
【考察】
この事例は職場復帰前に、麻痺側上肢機能の改善を希望し入院となった。10日間の経過で希望していた物品操作は獲得に至らなかったがFMA、WMFT、MALの点数に改善を認めた。外来通院での作業療法では改善を認めなかったが今回改善を認めたことで、事例によってプラトーに達したと思われる麻痺側上肢機能に対し短期入院での低頻度rTMSと作業療法の併用は効果的な可能性が示唆された。今後、この事例の経過を追うとともに、改善が見込まれる対象や麻痺の重症度に応じた個別療法や自主訓練のプログラムを検討していきたい。