九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 232
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高次脳機能障害者に対する自己認識向上の為の介入方法の検討 
~作業の自己予測及び戦略を意識付けた介入~
*宮原 智子清水 一川原 薫
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抄録
【はじめに】
 我々援助者は対象者に個々に目標を設定して援助を行うが,その際対象者自身の障害に対するself-awareness(以下,自己認識とする)が重要となる。しかし対象者自身に障害のフィードバックを行った結果,不安や防衛機制,モチベーション低下などを引き起こしてしまうことが問題として提起されている。自己認識に関し諸外国において,作業開始前に自らの作業の出来を予測させ効果的な戦略を考えさせること,作業後に結果を自己評価させることにより,障害を直接フィードバックせず対象者自身に気付く機会を与える方法の有効性が報告されている。今回筆者はこれらの方法に基づいた介入を実際に用い,自己認識の改善を目指したいと考えた。
【方法】
 対象者1は40代男性,1×年前頭部外傷受傷,遂行機能障害,注意障害,記憶障害が残存。病前は建物の配線の仕事,病後はしいたけ栽培の工場に復職していたが,上司より機械の操作ができない,ミスを人のせいにするなどの指摘があった。本人の自己認識は,集中力が低下など知識としては述べるも,作業は問題ない,と実際の仕事場面での認識が不十分であった。 対象者2は60代男性,数年前辺縁系炎症にて著明な記憶障害が残存。病前は喫茶店,不動産経営,病後は妻に起こされて起き,予定はその都度指示されていた。日常生活で困ることはない,言われないとずっとテレビを見ているけど横着だから,という認識であった。
 介入方法として,対象者1は計測を用いた作業,対象者2は料理のレシピを作るという作業を用い,シングルケース実験法にて介入ABを各10回ずつ施行した。介入Aは作業に有効な戦略を用いながら作業遂行を援助し,介入Bは作業前予測及び作業後評価,戦略への意識付けを行った。効果判定として,毎回介入直後に筆者らが翻訳,作成した日本語版Self-Regulation Skills Interview(以下,SRSIとする)を実施した。これは日常生活上の障害及び戦略を質問し,返答を10段階で評価するものである。また作業に関する認識も同様に質問し,さらに作業中の行動について介入ABを比較した。
 本研究の実施にあたり,対象者及び家族に同意を得,研究計画は本大学院倫理委員会で承認されている。
【結果】
 日本語版SRSIにおいて対象者1は項目1,対象者2は項目1~3において介入Bの方に認識の高さが認められた。作業に関する認識は両者共介入Bの認識が高かった。また介入Bの方が,戦略を自ら用い作業をすすめることが可能であった。
【考察】
 直接障害をフィードバックせずとも,対象者自身に障害に気づく機会を提供できる介入方法としての有効性が示唆された。また両対象者共,用いた作業に関しては認識が得られたが,日常生活に関しては戦略までの認識は不十分であり,個人に必要な作業について一つずつ実際場面で認識を向上させる必要性を改めて認識した。
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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