九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 254
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位置覚と協調性の低下、フォアフットロッカーの機能低下に着目したアプローチの立案
~2ヶ月でTUGが20秒以上改善した症例~
*是永 浩二
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抄録
【はじめに】
 TKA術後十年以上経過され,その後入退院を繰り返し徐々に歩行能力の低下が生じた症例を担当した.膝関節の位置覚と協調性の低下,フォアフットロッカーの機能低下に着目してアプローチを行い,歩行能力の改善が得られたので以下に報告する.
【症例紹介】
 70歳代女性.三十数年前にRAを発症し,右膝を12年前,左膝を10年前にTKA術施行.大腸潰瘍により昨年9月当院入院.U字型歩行器歩行自立レベルにて今年の1 月に当院併設の老健施設へ入所.
【初期評価】
 ROM制限は両膝関節屈曲100゜.下肢筋力は概ね4レベル.ADLは入浴動作以外すべて自立.Time Up and Go(以下TUG)は42秒5.歩行は右立脚期のDouble Knee Action(以下DKA)が消失し立脚期が短いため左下肢は外側へ振り出される.体幹は前傾位で,右膝関節伸展を補助している.閉眼端座位にて他動運動で保持した膝関節をもう一方の膝関節で模倣するように指示をすると,左右ともに3~5横指のズレを認めた.
【アプローチと結果】
 初期は位置覚と協調性の低下に着目し,片脚でのホリゾンタルレッグプレス(以下HLP)を低負荷にて行った.膝関節の急な伸展や屈曲が観察された.この逸脱運動に対しコントロールするよう指導し,協調運動の学習を図った.1ヶ月後,位置覚は1~1.5横指のズレまで改善した.HLPは極端な逸脱運動は見られなくなったが,ぎこちない屈伸運動は残存した.TUGは30秒5で,初期よりも12秒改善した.右立脚期が延長し,左下肢の外側への振り出しも減少した.この時にターミナルスタンス(以下TSt)でのtoe-outが観察された.この逸脱運動は,右下肢のフォアフットロッカーの機能低下を示しており,ウィンドラス機構が不十分なため足部の不安定性や推進力低下などの悪影響を及ぼしていると想定した.平行棒内にてフォアフットロッカーのポジションでの下腿三頭筋の促通運動を追加した.徐々に動作に慣れてきたら「親指で床を蹴るように.」と指示を出し,下腿三頭筋の強い収縮を促した.2ヶ月経過では,位置覚の検査は1横指未満のズレとなり,HLPは協調性のあるスムーズな屈伸運動が行えるようになった.TUGは21秒6で,初期と比べると20秒9の改善となった.歩行時の体幹の前傾が改善されDKAも観察でき,右下肢への十分な体重移動が可能となった.TStでのtoe-outは消失し,推進力が増強され,TUGの飛躍的なタイムアップにつながった.
【考察】
 今回着目した位置覚と協調性の低下,フォアフットロッカーの機能低下は,本症例が長期間の入院中にU字型歩行器に依存的となったためによる二次的な機能障害だと捉えている.加重不足による固有受容器への刺激の減少と歩行時の正常な筋活動の欠如が生じた結果だと考える.
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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