抄録
【はじめに】
今回、くも膜下出血により痙縮を起こし廃用手であった左上肢に対し、ボツリヌス毒素療法とCI療法(変法)、機能的電気刺激を併用した。結果、上肢機能に向上が見られ使用が可能となったため、報告する。
【症例紹介】
30代男性。くも膜下出血急性期治療後、4ヵ月リハビリ実施し自力歩行可能。3ヵ月後再発し手術実施。3ヵ月リハビリ実施後自宅退院、6ヵ月後職場復帰。独歩自立し電車通勤可能、営業職から事務職に配置変更され右手の使用により業務遂行は可能であった。
【経過】
左手の機能向上を希望され当院受診(発症より1年半経過)。ボツリヌス毒素療法とCI療法、機能的電気刺激使用による集中的リハビリ目的で2週間入院。初期評価時、12段階グレード上肢5、手指4。筋緊張は左上肢亢進、動作時の左手指は屈曲位となり1~3指は随意的な伸展は困難。手関節背屈は随意的に30度可能。感覚は、表在、深部とも中等度鈍麻。STEF左上肢11点。ピンチは母指と示指のPIP関節屈曲位での横つまみ。動作は努力性で代償動作が出現し実用性が低く、日常生活や仕事で左手は不使用であった。ボトックス注射後、筋緊張は若干軽減したが、動作時の左示指屈曲は残存したため、手指伸展装具を装着しての訓練を実施。意識化では筋緊張亢進が増強し、バスケットボールでのドリブルやボールパスなど、楽しみながらの無意識下での動作を導入。また、電卓操作や両手でのパソコン操作、定規での線引きなど、職場復帰後も左手の使用が継続されるような課題を導入。機能的電気刺激を使用し、手指伸展をアシストしながらの動作を実施。ストレスを考慮し、CI療法での非麻痺側の拘束は行わず、上肢訓練以外のエルゴメーターなども自主トレーニングに導入。また、モチベーションを向上するため、MAL評価項目は軽度の努力で実施可能なものとした。
【結果】
CI療法開始2週間後、12段階グレード左上肢8、手指4。STEF左上肢16点。4週間後外来にて、STEF26点まで向上。その後ボトックスの影響と思われる脱力が軽度出現するも、左手指の動作時の伸展が可能となり、左手を補助手として使用可能となった。
【考察・まとめ】
痙縮は、リハビリテーションの阻害因子となる。症例は、左手指の強い痙縮のため、使用が困難となっていた。非利き手の麻痺であり、利き手のみの使用で動作が可能であったことから、左手は学習性不使用でもあったと考える。今回ボツリヌス毒素療法により、痙縮が軽減し積極的な作業療法実施が容易となり、CI療法により左手の使用が促され機能向上に繋がったと考える。また、ストレスを考慮した拘束をしないCI療法が、症例のモチベーションを維持し、退院後の自主訓練の継続や、左手の実生活での使用が可能となったと考える。症例の今後の人生を考えると、貴重な余暇時間を費やしての機能訓練継続ではなく、実生活への汎化が重要であると考える。