抄録
【はじめに】
ヒトには,利き手や利き足のように機能的に非対称であることが報告されている.先行研究では,健常成人の上肢については明らかな一側優位性が認められ,下肢では明らかな優位性は認められていない.しかし,これらの研究では健常成人を対象としており,幼児を対象とした報告はない.そこで今回,健常な5歳児を対象に,上下肢の一側優位性について検討した.
【対象】
対象者は,健常な5歳児18名で,内訳は男児10名,女児8名,平均身長110.7±3.4cm,平均体重19.6±2.4kgである.対象者およびその保護者には,研究内容と方法を十分に説明し,研究参加の同意を得た後,測定を開始した.
【方法】
上肢については「箸を持つ方の手」を利き手とし,下肢については「ボールを蹴る方の足」を利き足とした.上肢の筋力の代表値には握力を用い,下肢筋力の代表値には大腿四頭筋筋力を用いた.握力の測定には,デジタル式握力計(株式会社OG技研)を使用した.測定肢位は,左右上肢を体側に垂らした安静立位で,肘関節伸展位のまま,左右各2回ずつ測定し,その平均値を採用した.大腿四頭筋筋力の測定については,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製)を使用した.対象者の下腿遠位部にセンサーを設置し,端坐位,膝関節90°屈曲位で最大等尺性収縮筋力を左右2回ずつ測定し,それぞれの最大値を代表値とした.上腕周径は上腕の最大部,前腕周径は前腕最大部を測定した.大腿周径は,膝蓋骨上縁から20cm上部を測定した.下腿周径は下腿の最大部を測定した.統計処理は,利き側,非利き側の測定値の比較には対応のあるt検定,測定値間の相関分析にはピアソンの相関係数を用いた.なお,有意水準は5%未満とした.
【結果】
「箸を持つ方の手」については,18名全員が右と認識していた.よって,対象者が認識している側を利き手,その反対側を非利き手として分析した.下肢については18名全員が右下肢でボールを蹴っていた.よって,ボールを蹴った側を利き足,その反対を非利き足として分析した.握力について,利き手(平均10.5±1.5kg)と非利き手(平均10.0±1.6kg)を比較すると,有意差は認められなかった.また,前腕周径についても,利き手(平均16.5±1.0cm)と非利き手(平均16.6±1.0cm)であり,有意な差は認められなかった.利き足の大腿四頭筋筋力は平均7.1±1.3N,非利き足は平均6.6±1.6Nであり,有意差は認められなかった.大腿周径(利き足平均30.3±2.2cm,非利き足平均29.9±2.5cm)についても,有意差は認められなかった.ただし,握力と前腕周径(r=0.41,P<0.05),大腿四頭筋筋力と大腿周径(r=0.56,P<0.05)では,共に有意な正の相関が認められた.
【考察】
今回対象とした5歳児の周径,握力,大腿四頭筋筋力は,全ての項目で一側優位性は認められなかった.先行研究では,利き手と認識するのは小学生以降と報告されており,5歳児の段階で利き手,非利き手の差はほとんどないのかもしれない.下肢の場合は,歩行を中心とした下肢の体重支持機能を効果的にしている結果と推察した.今回の結果から,5歳児の理学療法を行う際には,利き手や利き足の影響を考慮する必要性が少ないことが示唆された.